2023年8月25日
ある映画人夫妻の華麗なる足跡
――企画展「月丘夢路 井上梅次 100年祭」
国立映画アーカイブ 特定研究員 藤原征生
国立映画アーカイブでは、8月22日より企画展「月丘夢路 井上梅次 100年祭」を開催します。宝塚歌劇団から映画界入りし、美貌と優れた演技力によって活躍した女優・月丘夢路(1921-2017)。そして、日本の大手映画製作会社を渡り歩いて快作を連打した映画監督・井上梅次(1923-2010)。二人はどちらも黄金期の日本映画界に多大なる貢献を果たし、1957年の結婚以来、芸能界屈指の名カップルとしても知られました。
月丘夢路(本名:旭爪明子)は広島市生まれ。旧制女学校在学中に見た宝塚歌劇団の舞台に感銘を受け、周囲の反対を押し切って宝塚音楽学校へ進学します。越路吹雪、乙羽信子、淡島千景など、のちに芸能界の第一線で活躍する同級生たちのひしめく中で頭角を現わし、1939年に宝塚の初舞台を踏みました。在団中の1942年に出演した映画『新雪』(五所平之助監督)のヒットによって人気女優となり、翌年には歌劇団を退いて活動の場を映画に移します。終戦を経て映画界が盛り上がりを見せる中、小津安二郎監督の『晩春』(1949年)などの名作で好演する傍ら、郷里に投下された原子爆弾の惨禍を描く『ひろしま』(1953年、関川秀雄監督)に無報酬で出演するなど、幅広い作品で存在感を発揮します。2017年に逝去するまで映画、テレビ、舞台で精力的な活躍を続けました。
月丘夢路
井上・月丘映画財団所蔵
井上梅次は京都市に生まれ、山中貞雄など多くの映画監督を輩出したことで知られる京都市立第一商業学校を卒業しました。慶應義塾大学在学中の1946年に、商業学校の先輩である内川清一郎から助監督のアルバイトを紹介されたことが契機となり、翌年新東宝に入社します。『恋の応援団長』(1952年)で監督デビュー後は、『嵐を呼ぶ男』(1957年)など観客を飽きさせないサーヴィス精神豊かな娯楽作品を効率的な製作スタイルで量産し、戦後の映画監督としては最多となる116本の映画を手がけました。さらに、多くのスタッフが各社と専属契約を結んでいた時代にフリーランスとして活動し、ただ一人、日本の大手映画製作会社6社11系統の全撮影所で監督を務めるという前人未踏の記録を打ち立てました。その快進撃は日本にとどまらず、香港の映画界に招かれて17本の作品を残しさえしました。
井上梅次
井上・月丘映画財団所蔵
二人が出会ったのは、井上氏が監督を務め月丘氏が主演を務めた映画『火の鳥』(1956年6月14日公開)の現場でした。1957年の結婚から、2010年に井上氏が亡くなるまで睦まじい生活を送りました。
『火の鳥』(1956年、井上梅次監督) パンフレット
筆者蔵
展覧会では、一般財団法人井上・月丘映画財団の特別協力のもと、同財団の所蔵する貴重な資料の数々をひも解き、二人の映画における業績を中心にご紹介します。会場には、国立映画アーカイブ所蔵の映画ポスターも多数展示、さらには関連作品の音楽展示も設け、視覚面からも聴覚面からもお楽しみいただける内容になっております。日本映画黄金期の最前線で活躍した映画人夫妻の華麗なる足跡にどうぞご注目ください。
国立映画アーカイブ 企画展「月丘夢路 井上梅次 100年祭」
2023年8月22日[火]-11月26日[日]
会場:7階 展示室
〒104-0031 東京都中央区京橋 3-7-6
- 問合せ
- ハローダイヤル 050-5541-8600
- 交通
- 東京メトロ銀座線京橋駅出口1から昭和通り方向へ徒歩1分
- 都営地下鉄浅草線宝町駅出口A4から中央通り方向へ徒歩1分
- 開館時間
- 11:00am-6:30pm(入室は6:00pmまで)
- ※8月25日、10月27日、11月24日の金曜日は11:00am-8:00pm(入室は7:30pmまで)
- ※詳細はHPをご確認ください。
- 休館日
- 月曜日、9月5日[火]-8日[金]、9月26日[火]-10月1日[日]
- 観覧料
- 一般:250円(200円)/大学生:130円(60円)/65歳以上、高校生以下及び18歳未満、障害者手帳をお持ちの方(付添者は原則1名まで)、国立映画アーカイブのキャンパスメンバーズ:無料、11月3日(金・祝)「文化の日」は無料
- ※( )内は20名以上の団体料金。詳細はHPをご確認ください。
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