2023年9月25日
「生誕120年記念 棟方志功展 メイキング・オブ・ムナカタ」
東京国立近代美術館主任研究員 花井 久穂
「世界のムナカタ」として国際的な評価を得た版画家・棟方志功(1903-1975)。一心不乱に版木に向かう棟方の姿は、多くの人々の記憶に刻み込まれています。美術の授業で木版画を彫った経験のある人は、どこかで棟方の作品を目にしたことがあるのではないでしょうか。このたびの「生誕120年 棟方志功展」は、棟方という昭和を生きた芸術家の生涯をたどりつつ、棟方が試みた「版画」の冒険を読み解くものです。
青森県青森市に生まれた棟方は、雑誌『白樺』に掲載されていたゴッホの向日葵の絵を見て感銘を受け、洋画家になることを志して、上京します。白と黒の線からなる木版画の世界に魅かれた棟方は、次第に油彩から版画へと活動の中心を移しました。東京の青森人たちの集まりや文学者たちとの交友、そして民藝運動の人々との出会いを通して、宗教人物像や文学をテーマにした大作を次々と発表。「板の生命を彫りおこす」という思いから、自らの版画を「板画(はんが)」と称して独自の世界を築き上げました。

棟方志功《二菩薩釈迦十大弟子》「羅睺羅」1939年
東京国立近代美術館
戦中戦後の疎開先として6年8カ月を過ごしたのが、富山県南西部の福光町(現・南砺市)です。版木の入手にも窮する環境のなかで、倭画(棟方の肉筆画)や書など筆の仕事を増やし、その才能を開花させました。「板の命」をあるがままに生かすことを考えた棟方は、出来るだけ彫りを少なくするため、黒地に白い線を彫るという新たな表現を見出し、それは戦後の黒い大画面様式へと繋がっていきます。

棟方志功《華厳松》1944年 躅飛山光徳寺
1951(昭和26)年に東京に戻った棟方は、ヴェネチア・ビエンナーレなどの国際美術展で受賞を重ね、「世界のムナカタ」と呼ばれるようになります。出版ブームの中、本の挿絵や装幀の仕事は、棟方の大衆的な人気を押し上げることになりました。高度経済成長期の1960年代、公共建築の建設ラッシュの中、棟方の作品は、公共空間を飾る大壁画へと拡張していきました。この頃から棟方は青森の祭礼や民間信仰にまつわるモチーフに取り組むようになります。

棟方志功《飛神の柵》1968年 棟方志功記念館
青森、東京、富山の三つの地域は、それぞれに芸術家としての棟方の形成に大きな影響を与えました。本展では、棟方と各地域の関わりを軸に、板画、倭画(肉筆画)、油画といった様々な領域を横断しながら、本の装丁や挿絵、包装紙などの商業デザイン、映画・テレビ・ラジオ出演にいたるまで、時代特有の「メディア」を縦横無尽に駆け抜けた棟方の多岐にわたる活動を紹介し、棟方志功とはいかなる芸術家であったのかを再考します。
東京国立近代美術館
住所 〒102-8322 千代田区北の丸公園3-1
会場 1F 企画展ギャラリー
会期 2023年10月6日(金)~ 12月3日(日)
- 問合せ
- 050-5541-8600 (ハローダイヤル)
- 交通
- 東京メトロ東西線「竹橋駅」 1b出口より徒歩3分
- 東京メトロ東西線・半蔵門線・都営新宿線「九段下駅」4番出口より徒歩15分
- 東京メトロ半蔵門線・都営新宿線・三田線「神保町駅」A1出口より徒歩15分
- 休館日
- 月曜日(ただし10月9日は開館)、10月10日(火)
- 開館時間
- 10:00-17:00(金曜・土曜は10:00-20:00)入館は閉館30分前まで
- 観覧料
- 一般1,800円(1,600円)、大学生1,200円(1,000円)、高校生700円(500円)
※( )内は20名以上の団体料金、ならびに前売券料金(販売期間:8月22日~10月5日)。いずれも消費税込。
※中学生以下、障害者手帳をお持ちの方とその付添者(1名)は無料。それぞれ入館の際、学生証等の年齢のわかるもの、障害者手帳等をご提示ください。
※キャンパスメンバーズの学生・教職員は、学生証・職員証の提示により団体料金でご鑑賞いただけます。
※本展の観覧料で入館当日に限り、所蔵作品展「MOMATコレクション」(4-2F)、コレクションによる小企画「女性と抽象」(2F ギャラリー4)もご覧いただけます。 - ホームページ