2023年10月25日
大巻伸嗣のインスタレーション-展覧会に寄せて
国立新美術館 学芸課長 長屋光枝
今日、現代美術のひとつのあり方として、インスタレーションという形式がひろく普及しています。設置される場所の特性にあわせて作られるインスタレーションは、その場の空間を取り込み、観客はしばしば、そのなかに入って作品全体を体感することができます。
大巻伸嗣(1971年岐阜県生、神奈川県在住)は、日本を代表するインスタレーション作家として国際的に活躍しています。「存在するとはいかなることか」という根源的な問いを掲げ、身体の感覚を揺さぶる大規模な空間を創り出してきました。その空間に包み込まれた私たちは、世界における我が身の存在に、新たな視点を投げかけることになります。華やかな装飾、あるいは光と闇に包まれることにより、自分自身の意識や感覚に向き合うことを促されるのです。

Gravity and Grace, 2018
大巻は、歴史や現代社会の問題を深く考察することで、作品の着想を得てきました。〈Gravity and Grace〉シリーズは、原子力という諸刃の剣を抱える今日の社会を批評したインスタレーションです。動植物の文様を施された大きな壺から放たれる強烈な光と、それが生み出す影。ここで大巻は、原子力が引き起こした未曽有の人災に、核分裂反応の爆発的なエネルギーの象徴とも言える、最大84万ルーメンもの強烈な光で応答しています。この魅惑的な光と、そこに文字通り吸い寄せられる人々の姿を通じて、エネルギーに過度に依存した今日の社会を批判的に検証しているのです。

Gravity and Grace(部分), 2018
光と闇を重要な要素とする大巻の空間は、太陽のリズムとともに在るこの世界を象徴するような始原的な感覚も湛えています。その始原性にかかわるのが、大巻が好んで用いてきた繊細かつ濃厚な装飾的な造形です。人間は、自然を抽象化した文様を身近なものとすることで、自然に寄り添って生きてきました。大巻のインスタレーションは、現代社会に対する優れた批評である一方、人間に普遍的にそなわる根源的な造形志向も色濃く反映しています。

「大巻伸嗣 Interface of Being 真空のゆらぎ」展は、国立新美術館の、天井高8m、2000㎡にも及ぶ展示室をダイナミックに使って開催されます。この広大な空間で繰り広げられるインスタレーションは、観客の身体的な感覚と強く響き合い、現代に生きる私たちが失った総合的な生の感覚を喚起することでしょう。展示には、映像や音響、そして詩も用いられ、会場内でのパフォーマンスも予定されています。大巻が創り出す、現代の総合芸術をお楽しみください。
国立新美術館
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