2024年1月29日
小林正和とその時代―ファイバーアート、その向こうへ
京都国立近代美術館 副館長・学芸課長 池田祐子
「ファイバーアート」という言葉をご存知ですか?ときにファイバーワークまたはテキスタイルアートという名前でも呼ばれますが、簡単に言えば、繊維素材。そしてそれに関わる技法(織る、染める、紡ぐ、結ぶ、縫う、編むなど)を主たる表現媒体としているアート作品のことです。使われる素材や技法が極めて多様化している現代アートの世界で、この言葉を聞く機会は少なくなってしまいましたが、1970年代から90年代にかけて日本のファイバーアートは、世界の第一線に位置し、国内でも数多くの展覧会が開催されました。元来は「用」を前提とする染織作品が、作家自身の考えを表現する美術作品へと展開したのは1960年代のことですが、欧米に端を発したこの動向をいち早く日本で紹介したのが、2023年に開館60周年を迎えた京都国立近代美術館でした。そしてこの分野において、日本の作家として先陣を切って世界で評価されたのが、京都市出身の小林正和(1944~2004)です。
京都市立芸術大学で漆工を学んだ小林正和は、より自由な色彩表現を求めて、卒業後は川島織物に就職しました。そこでインテリア・ファブリックのデザインに従事する傍ら、「糸」に注目したファイバーアート作品を手がけるようになります。彼がまず魅了されたのは、両手にかけた糸が自重で垂れ下がるときに生まれる自然な放物線でした。それを青海波に見立てて作品化したのが《吹けよ風》です。これを展開させた《Blow in the Wind》は、国際タペストリー・ビエンナーレ(1973年、ローザンヌ、スイス)に入選し、《WIND-4》は国際テキスタイル・トリエンナーレ(1975年、ウッヂ、ポーランド)で最高賞を受賞して、小林は一躍世界で知られる存在となりました。

《WIND-4》 1975年頃 綿糸/綴織 個人蔵
次に小林が注目したのは糸の張力です。竹ひごやアルミ棒の両端に糸を結んでピンと張ったものをBOW(弓)と呼び、それを複数重ねることで多彩な表情を生みだしました。また、作品は二次元から三次元へと展開し、あくまでも「糸」を主体としつつ、KAZAOTOやYUMIOTO、MIZUOTO、HANAOTOといったタイトルからもわかるように、空間に自然を現出させるような作品を発表しました。そしてそれらは、極めて「日本的」な作品として世界で高く評価されたのです。
小林正和没後初の回顧展である本展で、「糸」による表現を追求した彼の豊かな作品世界を是非体験してみてください。

《KAZAOTO-D92》 1992年 絹糸、アルミニウム、ベルベット、木製パネル/コイリング、結び 個人蔵

《MIZUOTO-99》 1999年頃 レーヨン、ステンレス、アルミニウム/綴織、コイリング 個人蔵
京都国立近代美術館
(住所)606-8344 京都市左京区岡崎円勝寺町
- 問合せ
- 075-761-4111
- 交通
- □JR・近鉄~バスを御利用の方
- ■JR・近鉄京都駅前(A1のりば)から
- 市バス5番 銀閣寺・岩倉行「岡崎公園 美術館・平安神宮前」下車すぐ
- □阪急・京阪~バスを御利用の方
- ■阪急烏丸駅・京都河原町駅,京阪三条駅から市バス5番 銀閣寺・岩倉行
- 「岡崎公園 美術館・平安神宮前」下車すぐ
- ■阪急烏丸駅・京都河原町駅,京阪祇園四条駅から市バス46番 祇園・平安神宮行「岡崎公園 美術館・平安神宮前」下車すぐ
- □市バス他系統を御利用の方
- 「岡崎公園 ロームシアター京都・みやこめっせ前」下車徒歩約5分
- 「東山二条・岡崎公園口」下車徒歩約10分
- □地下鉄を御利用の方
- 地下鉄東西線「東山」駅下車 1番出口より徒歩約10分
- 開館時間
- 午前10時~午後6時(入館は閉館30分前まで)
- ※企画展開催中の毎週金曜日は午後8時まで(入場は閉館30分前まで)
- 会期
- 2024年1月6日(土)~3月10日(日)
- 休館日
- 月曜日(ただし2月12日(月・祝)は開館)、2月13日(火)
- 観覧料
- 一般1,200円(1,000円),大学生500円(400円)
- ※()内は20名以上の団体および夜間割引(金曜午後6時以降)
- ※高校生以下・18歳未満は無料*。
- ※心身に障がいのある方と付添者1名は無料*。
- ※母子家庭・父子家庭の世帯員の方は無料*。
- *入館の際に証明できるものをご提示ください。
- ホームページ
-
https://www.momak.go.jp/Japanese/exhibitionarchive/2023/456.html