2024年3月1日
「中平卓馬 火―氾濫」
東京国立近代美術館主任研究員 増田玲
東京国立近代美術館では、2月6日から4月7日まで、「中平卓馬 火―氾濫」展を開催しています。
中平卓馬(1938-2015)は、日本の戦後写真における転換点となった1960年代末から1970年代半ばにかけて、実作と理論の両面において、大きな足跡を記した写真家です。その存在は写真界にとどまらず、同時代のさまざまな分野の表現者たちを刺激し、また後続の世代にも多大な影響を与えてきました。

中平卓馬《無題 #437》2005年
東京国立近代美術館
©Gen Nakahira
月刊誌の編集者だった中平は、写真家・東松照明と知り合ったことで、写真というメディアに深く関心を向けるようになります。1964年、東松の協力で担当する月刊誌にグラビアページを設け、自らも写真を撮るようになり、翌年には出版社を退社、写真家へと転身しました。
初期の中平の活動を特徴づけるのは、1968年創刊の写真誌『Provoke』などに発表した、「アレ・ブレ・ボケ」と呼ばれる従来の写真表現の常識をくつがえすイメージです。粒子が目立つ「アレ」たモノクロ写真の画面のなかで、被写体は激しく「ブレ」たり、ピントが「ボケ」たりしているという、見るものを驚かせるような写真を、中平は発表していったのです。Provokeとは「挑発する」という意味。1960年代末、「異議申し立て」の機運が世界的に高まるなか、写真家としてだけでなく新進の批評家としても活発な発言を展開していった中平の過激で挑発的な姿勢は、写真というジャンルを越えて注目されていきます。

中平卓馬《夜》1969年頃
東京国立近代美術館
©Gen Nakahira
その後も1973年の評論集『なぜ、植物図鑑か』で、自らの初期作品をきびしく批判し、新たな方向に向かうことを宣言、そして1977年の昏倒・記憶喪失とそこからの再起など、中平の経歴は劇的なエピソードによって彩られています。しかし、それらは中平の存在感を際立たせる一方で、中平像を固定し、その仕事の詳細を見えにくくするものでもありました。

中平卓馬《「氾濫」より》1971年
東京国立近代美術館
©Gen Nakahira
今回の展覧会では、雑誌などを通じて、中平が広く同時代に向けて発信していった仕事を、そのオリジナルの誌面に立ち戻って丁寧にたどり、その展開を再検証するとともに、いくつかの重要な展覧会での発表作にも注目します。
2015年に中平が死去して以降も、その仕事への関心は国内外で高まり続けてきました。本展は、初期から晩年まで約400点の作品・資料から、今日もなお見過ごすことのできない問いを投げかける、中平の写真をめぐる思考と実践の軌跡をたどる待望の展覧会です。
東京国立近代美術館
(住所)〒102-8322
千代田区北の丸公園3-1
- 問合せ
- 050-5541-8600(ハローダイヤル 9:00~20:00)
- 交通
- 東京メトロ東西線「竹橋駅」 1b出口より徒歩3分
- 東京メトロ東西線・半蔵門線・都営新宿線「九段下駅」4番出口より徒歩15分
- 東京メトロ半蔵門線・都営新宿線・三田線「神保町駅」A1出口より徒歩15分
- 開館時間
- 10:00-17:00(金曜・土曜は10:00-20:00)
- 入館は閉館30分前まで
- 休館日
- 月曜日(ただし2月12日、3月25日は開館)、2月13日
- 会期
- 2024年2月6日(火)~ 4月7日(日)
- 観覧料
- 一般 1,500円(1,300円)
- 大学生 1,000円(800円)
- ※( )内は20名以上の団体料金。いずれも消費税込。
- ※高校生以下および18歳未満、障害者手帳をお持ちの方とその付添者(1名)は無料。それぞれ入館の際、学生証等の年齢のわかるもの、障害者手帳等をご提示ください。
- ※キャンパスメンバーズ加盟校の学生・教職員は、学生証・職員証の提示により団体料金でご鑑賞いただけます。
- ※本展の観覧料で入館当日に限り、所蔵作品展「MOMATコレクション」(4-2F)、コレクションによる小企画「新収蔵&特別公開|ジェルメーヌ・リシエ《蟻》」(2F ギャラリー4)もご覧いただけます。
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