2024年6月27日
「つくるとは何か」— 梅津庸一から考えてみる
国立国際美術館 主任研究員 福元崇志
梅津庸一は、1982年生まれの美術家です。2005年に美術大学を卒業してから、彼は絵を描くかたわらで映像を撮り、また最近では陶芸や版画も大量に手がけてきました。さらには2014年に「パープルーム」というアートコレクティブを立ち上げ、若い作家(志望者)たちと送る共同生活の様子を絶えず発信しながら、展覧会を企画したり、批評テキストも執筆したりと、多種多様な活動を展開しています。あれもこれもと手を出さずにはいられない、ちょっとせわしない人です。
本展覧会は、そんな梅津の仕事を総覧する、国立美術館では初めての機会となります。ただし整然と作品を並べ、時代ごと、ジャンルごとに作家の歩みを回顧するわけではありません。彼の活動の随所から浮かび上がってくるのは、「ものをつくるとは何か」という問いです。この問いに促され、いまいちど、「つくる」ことの意義について考え直してみることこそを、実のところ私たちは目指しています。
梅津庸一《智・感・情・A》2012-14 年
布、パネルに油彩 東京都現代美術館蔵
撮影:大谷一郎
では、梅津は具体的に、どう「つくる」ことと向き合ってきたのでしょうか。彼はまず、裸の自画像を描いて注目を集めました。ラファエル・コランや黒田清輝など、近代洋画の歴史を参照するその実践は、日本で美術家として生きることの可能性を模索する切実な試みだったと言えるでしょう。いっぽう、歴史をよりどころとしない、私的な制作のあり方をも同時に追求する彼は、幼少期のお絵かきや、受験期に培ったテクニック、また手癖などを駆使した抽象的なドローイングを数多く手がけています。
梅津庸一《集団意識》2021年
紙に水彩、インク、アクリル、油彩、エナメル
みそにこみおでん蔵 画像提供:艸居
梅津にとっての主軸が、このように絵画であることは間違いありません。しかし彼は、2021年から猛烈な勢いで陶芸を手がけるようにもなりました。きっかけは滋賀県信楽への移住で、コロナ禍の最中に黙々と粘土を捏ねる日々は、現代美術という領域から距離をとりつつ、職人という、人知れず働く作り手たちへと目を向けるきっかけを梅津に提供します。その後に始めた版画制作でも、工房との関わりを通じて強めていったのは、制作を下支えする基盤、つまりは「インフラ」への関心でした。
梅津庸一《フェンスにもたれかかるパームツリー》
2021年 陶 作家蔵
撮影:今村裕司 画像提供:艸居
ほとんど休まず手を動かし、素早く多くの作品を生み出すなかで、梅津は「つくる」という営みをさまざまなレベルから問いなおしていきます。「自分のやるべきことはこれだ」と規定することなく、複数の領域にまたがる彼の仕事の全体は、一種の総合芸術にもなぞらえられるでしょう。互いに異質なもの同士を並置し、関係を混ぜ返すことによって思いがけず生じてくる意味や文脈。それこそが梅津の狙いであるのなら、本展覧会もまた、彼の足跡を分類し、整理し、理解するための場にはなりえないはずです。あらゆるものが渾然一体と提示される展示室で、「つくる」をめぐる、さまざまな思考が生じてくることを願ってやみません。
国立国際美術館
(住所)〒530-0005
大阪市北区中之島4-2-55
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- 06-6447-4680
- 交通
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・JR大阪環状線「福島駅」から南へ徒歩約15分
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- 10:00~17:00※毎週金・土曜日は20:00まで※入場は閉館の30分前まで
- 休館日
- 月曜日(ただし、7月15日(月・祝)、8月12日(月・休)、9月16日(月・祝)、9月23日(月・休)は開館し、7月16日(火)、8月13日(火)、9月17日(火)、9月24日(火)は休館)
- 観覧料
- 一般1,200円(1,000円)、大学生700円(600円)
※( )内は20名以上の団体および夜間割引料金(対象時間:金曜・土曜の17:00-20:00)
※高校生以下・18歳未満無料(要証明)・心身に障がいのある方とその付添者1名無料(要証明)
※本展覧会会期中は、展示室の整備・修繕のため、コレクション展を開催しません。 - ホームページ