2024年7月25日
越境者としての田名網敬一
国立新美術館 特定研究員 小野寺奈津
1936年生まれのアーティスト・田名網敬一は、幼少期に経験した戦争の記憶とその後に触れたアメリカ大衆文化からの影響が色濃く反映された、色彩鮮やかな作品で知られています。学生時代からグラフィックデザイナーとして活動を開始し、88歳となる現在に至るまで精力的に活動を続ける田名網にとって、本展はこれまでで最大規模となる待望の大規模回顧展となります。
《死と再生のドラマ》2019年
顔料インク、アクリル・シルクスクリーン、ガラスの粉末、ラメ、アクリル絵具/カンヴァス200 x 400 cm (4幅対)©Keiichi Tanaami / Courtesy of NANZUKA
田名網は、現在のマルチなアーティスト像のロールモデルともいうべき存在であり、活動当初から領域横断的な活動を展開してきたアーティストです。1966年には、印刷物は複製ではなく無数のオリジナル作品であるという独自のコンセプトのもと、アーティストとしての出発点ともいえる作品集『田名網敬一の肖像』を出版します。1960年代後半には多数のシルクスクリーンポスターを発表し、雑誌や広告を主な舞台に、日本のアンダーグラウンドなアートシーンを牽引してきました。
ポートレイト
「田名綱敬ーポスター・イラストレーション展」
西武百貨店渋谷店にて1968年 ©Keiichi Tanaami / Courtesy of NANZUKA
1975年には、日本版月刊『PLAYBOY』の初代アートディレクターに就任。その後も現在に至るまで、絵画、シルクスクリーン版画、コラージュ作品、アニメーションや実験映像、立体作品、大規模なインスタレーションの制作、そして多彩なコラボレーションを続けています。特に2000年代に入ってから田名網の活動の先駆性が改めて注目されるようになり、世界各地の美術・文化機関で作品の展示や映像作品の上映が行われています。
田名網の多岐にわたる芸術世界の源には、幼少期に体験した戦争の記憶や生死の境を彷徨った大病の壮絶な経験があります。「人間は自らの記憶を無意識のうちに作り変えながら生きている。」という考え方に基づいて、自身の脳内で増幅される「記憶」を主題に創作活動を続ける田名網。「記憶の冒険」と題された本展では、時代の最先端を走り続ける田名網の飽くなき探求心が生み出す、虚実が入り混じった記憶のコラージュのような作品世界が展開されます。
田名網の頭のなかをのぞくような「記憶の冒険」を、この機会にぜひ体験していただければと思います。
《森の掟》2024年
顔料インク、アクリル・シルクスクリーン、ガラスの粉末、ラメ、アクリル/カンヴァス 251×200cm ©Keiichi Tanaami / Courtesy of NANZUKA
国立新美術館
(住所)〒106-8558
東京都港区六本木7-22-2
- 問合せ
- 050-5541-8600(ハローダイヤル)
- 交通
- 東京メトロ千代田線乃木坂駅青山霊園方面改札6出口(美術館直結)
東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩約5分
都営地下鉄大江戸線六本木駅7出口から徒歩約4分 - 開館時間
- 10:00~18:00
※毎週金・土曜日は20:00まで
※入場は閉館の30分前まで - 休館日
- 毎週火曜日
- 観覧料
- 2,000円(一般)、1,400円(大学生)、1,000円(高校生) 中学生以下は入場無料。
障害者手帳をご持参の方(付添の方1名含む)は入場無料。
8月19日(月)~25日(日)は高校生無料観覧日(学生証の提示が必要)。
※ただし8月20日(火)は休館日 - ホームページ