2024年8月27日
没後50年 映画監督 田坂具隆
~映画作りの≪誠実≫を求めて~
国立映画アーカイブ主任研究員 岡田秀則
日本映画の豊かな歴史を眺めた時、名監督・田坂具隆(1902-1974)の名を忘れることはできません。無声映画期の1926年に『かぼちゃ騒動記』でデビューした田坂は、やがてトーキー(映像と音声が同期した映画。)の時代に入り、『真実一路』(1937年)、『路傍の石』(1938年)といった文芸作品でヒューマニズムに溢れる作風を確立、内田吐夢(映画監督)とともに日活多摩川撮影所の全盛期を築きました。また、『五人の斥候兵』(1938年)からは迫真性に満ちた戦争映画の演出を引き受けますが、そこでも兵士ひとりひとりの境遇に眼差しを注ぐことを忘れませんでした。

『路傍の石』(1938年)ポスター 当館蔵
1945年8月6日、田坂は広島で被爆し、数年にわたる厳しい闘病生活は、彼の映画界への復帰を阻みました。のちに市川崑監督の手で映画化される竹山道雄・原作の『ビルマの竪琴』も、もとは田坂が演出するはずの企画でした。
しかし、再起後は数々の撮影所で石原裕次郎・中村錦之助・佐久間良子らスターの育成に力を注ぎつつ、『女中ッ子』(1955年)、『陽のあたる坂道』(1958年)、『ちいさこべ』(1962年)、『五番町夕霧樓』(1963年)など幾多の名作を残しました。アクションスターになる前に薫陶を受けた裕次郎は、田坂をもっとも尊敬する監督として挙げています。

未映画化『ビルマの竪琴』(1950年)演出台本 当館蔵(小杉勇コレクション)
こうした輝かしい作品群を誇りながらも、田坂は長らく再評価の機会に恵まれてきませんでした。しかし、小さきもの、弱きものに一貫して寄り添うその作風は、篤実に生きようとする人々へのエールに満ちており、続けざまの災厄に苛まれ、社会の不寛容さが増すこの時代にこそ強く輝くはずです。
没後すでに半世紀となる本年、当館は田坂をめぐる初めての書籍『ぐりゅうさん 映画監督田坂具隆』の刊行に連動して、関係者より提供された多くの貴重な資料を含め、田坂の映画人生と人となりを紹介する初の回顧展を行うとともに、10月8日からは監督作の特集上映も開催いたします。人間の「善」を誠実に信じたこの「日本映画の良心」を通じて、映画とその向こう側にある人間の生を見つめ直す良き機会となるでしょう。

田坂具隆(1937年) 小杉家蔵
国立映画アーカイブ 企画展「没後50年 映画監督 田坂具隆」
2024年9月7日[土]-11月24日[日]
会場:7階 展示室
(住所)〒104-0031
東京都中央区京橋 3-7-6
- 問合せ
- 050-5541-8600(ハローダイヤル)
- 交通
- 東京メトロ銀座線京橋駅出口1から昭和通り方向へ徒歩1分
都営地下鉄浅草線宝町駅出口A4から中央通り方向へ徒歩1分 東京メトロ有楽町線銀座一丁目駅出口7より徒歩5分 JR東京駅下車、八重洲南口より徒歩10分 - 開館時間
- 火曜日~日曜日 11:00am-6:30pm(入室は6:00pmまで)
- 9月27日、10月25日の金曜日は11:00am-8:00pm(入室は7:30pmまで)※詳細はHPをご確認ください。
- 休館日
- 月曜日
- 観覧料
- 一般:250円(200円)/大学生:130円(60円)/65歳以上、高校生以下及び18歳未満、障害者手帳をお持ちの方(付添者は原則1名まで)、国立映画アーカイブのキャンパスメンバーズ:無料、11月3日(金・祝)「文化の日」は無料
- ※( )内は20名以上の団体料金。詳細はHPをご確認ください。
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