2024年9月27日
国立工芸館で芸術の秋を堪能―「心象工芸展」
国立工芸館 工芸課長 岩井美恵子
その制作技術に注目が集まりがちな工芸作品。しかし実際には多くの工芸家が自身の心象や社会とのかかわりといったモチーフにも重点を置いて制作しています。

沖潤子《水蜜桃》2020年 個人蔵 撮影:木奥惠三
絵画や彫刻作品は、描かれているモチーフや色合い、その制作された背景、または制作した画家や彫刻家の歴史を知ることでより深い感動や共感を覚え、楽しめるにもかかわらず、工芸作品は見どころや見方がわからないという声を耳にすることがあります。確かに工芸は、素材に対する深い理解とそれに伴う技術で表現されているので「何が表現されているのか」といったことよりも「どのようにこの作品が制作されているのか」といった点に注目が集まりがちかもしれません。

佐々木類《植物の記憶/うつろい(弥生)》、《植物の記憶/うつろい(卯月)》2024年 作家蔵
撮影:野村知也
今回の展覧会では、自身の心象風景を表現している6人の工芸家の作品を展示しています。
刺繍の沖潤子は生命の痕跡を刻み込む作業として布に針目を重ねた作品を、ガラスの佐々木類は土地と自然の記憶を留める作品を、金工の髙橋賢悟は現代における「死生観」と「再生」をテーマにした作品を制作しています。また、金工の人間国宝である中川衛は伝統工芸の世界で各国の風景を抽象模様化した作品を、漆芸の中田真裕は心奪われた一瞬の光景を共有するための作品を、陶芸の松永圭太は自身の原風景と時間を留め地層を重ね、モチーフにして作品を制作しています。

中川衛《金銀象嵌「翡翠置物」》2017年 作家蔵
撮影:野村知也
印象に残る風景やそれにまつわる思い出。誰の胸にも大事にとどめているものが、いくつかあると思います。作り手たちはそれを芸術作品としてアウトプットし、私たちに新たな感動を与えてくれます。ぜひこの展覧会をご覧いただき、作り手たちの美しい思い出の風景を共有してみてください。

松永圭太《蛻》2024年 作家蔵 撮影:野村知也
工芸の鑑賞は難しいとか、国立美術館での展覧会鑑賞はハードルが高いなどと言われることも多いですが、決してそんなことはありません。今、同時代を生きる作家たちの心象を表した作品は、きっと皆さんの心にも感動を呼んでくれると思います。工芸館で芸術の秋をご堪能ください。
国立工芸館
(住所)〒920-0963
石川県金沢市出羽町3番2号
- 問合せ
- 050-5541-8600(ハローダイヤル)
- 交通
- ■バス/JR金沢駅東口(兼六園口)より乗車
3番乗り場:乗車(約12分)、「広坂・21世紀美術館(石浦神社前)」下車徒歩7分
6番乗り場:乗車(「柳橋」行を除く)(約12分)、「出羽町」下車徒歩5分
8番乗り場:乗車(約11分)、「広坂・21世紀美術館(しいのき迎賓館前)」下車徒歩9分
■車/北陸自動車道金沢西ICまたは金沢森本ICから20~30分
※近隣に文化施設共用駐車場(無料)があります。 - 開館時間
- 9:30~17:30(入館は閉館の30分前まで)
- 休館日
- 月曜日(ただし9/16,23,10/14,11/4は開館),9/17,24,10/15,11/5
- 観覧料
- 一般1,000円(900円), 大学生800円(700円), 高校生500円(400円)
※( )内は20名以上の団体料金・割引料金。いずれも消費税込
※中学生以下、障害者手帳をお持ちの方と付添者(1名)は無料。
※いしかわ文化の日(10/20)は団体料金・割引料金
※文化の日(11/3)は無料 - ホームページ