2024年11月25日
荒川ナッシュ医 パフォーマンスと絵画
国立新美術館 主任研究員 米田尚輝
「荒川ナッシュ医 ペインティングス・アー・ポップスターズ」展は、2000年代から国際芸術展や美術館でパフォーマンス・アートを発表してきた米国在住のアーティスト、荒川ナッシュ医(1977年-)のアジア地域においては初めての美術館での個展です。
本展は一人のアーティストの個展でありながら、荒川ナッシュに協力するさまざまな画家の絵画が会場内に「登場」します。それぞれの絵画を存在感のあるポップスターと見なし、荒川ナッシュはその絵画のアティテュード(姿勢)から発案された幾つもの協働パフォーマンスを展覧会の中で発表します。

ユタ・クータの《Demonic Options》(2008年)を持つ荒川ナッシュ医
Ei Arakawa-Nash holding Jutta Koether’s Demonic Options (2008)
Photo: Ricardo Nagaoka
Courtesy of the artist
荒川ナッシュは1998年に米国ニューヨークへ渡り、2000年代半ばから美術館やギャラリーを舞台としたパフォーマンス・アートの発展に精力的に関わってきました。米国ではニューヨーク近代美術館をはじめ、数多くの美術館でパフォーマンスを披露しています。その一方で日本国内では、幾つかの国際芸術展において彼の初期活動は見ることができたものの、美術館で荒川ナッシュの個展はこれまで開催されたことがありませんでした。

荒川医《メガどうぞご自由にお描きください》2021年、テート・モダン、ロンドン
Ei Arakawa, Mega Please Draw Freely, 2021, Tate Modern, London
Photo: Rikard Österlund
Courtesy of the artist and Tate Modern, London
1960年代から前衛芸術として世界的に急速に発展したパフォーマンス・アートは、2000年代前半には身体の表象に伴うポスト・コロニアルな言説の普及や国際芸術展の旺盛によって、美術館の新たなプログラムとして必要不可欠なものになりました。ニューヨークでは、2007年のiPhone発表に代表されるアナログからデジタルへの技術的移行により、アーティストたちのアナログなものに対しての再考が始まっていました。
とりわけ画家は、絵画の物質感や、スタジオでの長い時間をかけた労働の意味を再確認する必要に迫られ、社会のデジタル化に応答した新しい絵画のあり方を追求していきました。これと並行して、美術館はパフォーマンス・アートなどの体験に重点を置いたイベントや、ソーシャル・メディアの登場によって促された間口の広い公共性が模索されました。

荒川医《Cologne of the Maghreb (Bodyphilia Song)》2016年、ルートヴィヒ美術館、ケルン
Ei Arakawa, Cologne of the Maghreb (Bodyphilia Song), 2016, Museum Ludwig, Cologne
Photo: Mike Schlömer
Courtesy of the artist and Museum Ludwig, Cologne
本展は、こうしたアートの潮流のパフォーマティヴな傾向への移行を顧みて、主にニューヨークの現代画家たちによる一時的な出来事とはほど遠い古典的メディアである絵画と、パフォーマンスを続けてきた荒川ナッシュ医の20年間を通覧する展覧会です。絵画が歌って踊るポップスターであるというタイトルが示唆するのは、パフォーマンス・アートの絵画への羨望でもあり、絵画という歴史的な文脈に対しての軽やかな挑戦でもあります。

荒川医《Kissing The Canvas》2012年、テート・モダン、ロンドン
Ei Arakawa, Kissing The Canvas, 2012, Tate Modern, London
Photo: Tate Modern
Courtesy of the artist and Tate Modern, London
国立新美術館
『荒川ナッシュ医 ペインティングス・アー・ポップスターズ』
2024年10月30日(水) ~ 2024年12月16日(月)
(住所)〒106-8558
東京都港区六本木7-22-2
- 問合せ
- 050-5541-8600(ハローダイヤル)
- 交通
- 東京メトロ千代田線乃木坂駅青山霊園方面改札6出口(美術館直結)
東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩約5分
都営地下鉄大江戸線六本木駅7出口から徒歩約4分 - 開館時間
- 10:00~18:00
※毎週金・土曜日は20:00まで
※入場は閉館の30分前まで - 休館日
- 毎週火曜日
- 観覧料
- 無料
- ホームページ
-
https://www.nact.jp/exhibition_special/2024/eiarakawanash/index.html