2025年1月24日
生誕120年 人間国宝 黒田辰秋 ―木と漆と螺鈿の旅―
大長智広 京都国立近代美術館主任研究員
京都国立近代美術館では現在、木工芸の重要無形文化財保持者(いわゆる人間国宝)である黒田辰秋の生誕120年を記念した回顧展を開催しています(3月2日(日)まで)。黒田辰秋は京都に生まれ、京都を拠点に活躍した木工芸と漆芸を制作の主体とする木漆工芸家ですが、京都で本格的かつ大規模な回顧展が開催されるのは今回が初めてとなります。
黒田の仕事は、年とともに直線を基本とした端正な形態から次第に曲線や丸みを帯びた量感あふれる作品が増え、また経験の積み重ねとともに技術的習熟度も増していきます。しかし作風上の大きな転換期といえるものがなく、そこには木材や漆、螺鈿が有する特性や材質感と対話を重ね、素材を通じて自己実現を行うという態度が貫かれています。こうした黒田の制作の軌跡について、評論家の小林秀雄は黒田の初期と後年の作品を比較しながら「やはり名人といふものは、個性は一貫したものだ」と感心しながら評しました。いわば、作品の大小、新旧にかかわりなく、どの仕事のどの面を切っても充実した黒田の個性が内在しているといえます。

拭漆欅大飾棚 昭和25(1950)年 150.0×25.0×75.8(cm) 個人蔵
作家としての黒田の仕事の全体像を示すにあたり、本展では一般的な回顧展とは展覧会の構成を変えて、第一部「黒田辰秋の軌跡『黒田辰秋 人と作品』より」、第二部「用と美の邂逅」の二部構成としています。第一部の中心を成す作品集『黒田辰秋 人と作品』は黒田自身が「工芸を志す一人の人間の約半世紀の生活記録」と語ったものです。そこで第一部ではこの作品集に掲載されている作品および類似品を通じて黒田の初期から晩年にかけての仕事の展開を示します。

拭漆文欟木飾棚 昭和41(1966)年 81.0×118.0×39.0(cm) 京都国立近代美術館蔵
その上で黒田の個々の仕事における特徴に焦点を当てるのが第二部です。第二部はさらに四章に分け、「1. 上加茂民藝協團の時代」「2. 木工芸の匠」「3. 塗りの匠」「4. 螺鈿の匠」としています。1では黒田自身が「初期民藝運動の同人の一人」と回想したように古典との関わりを通じて自己の経験を積んだ時期を、2では漆を塗っては拭き取る工程を何度も繰り返す拭漆の技法を中心に木の素材をいかに引き出していくのかを、3では塗膜である漆を通じて形の「美しい線」を強調した仕事を、4ではメキシコ鮑や白蝶貝などの重厚な輝きを装飾に用いた螺鈿による作品を紹介します。

赤漆流稜文飾箱 昭和32(1957)年頃 18.5×31.2×16.0(cm) 国立工芸館蔵
黒田は分業が当たり前であった木工芸、漆工芸において一貫制作を確立した先駆者です。黒田の創作とは、先人たちの残した豊かな経験の上に立ち、自己がかかわることによって素材の特性を生かし、自然の豊かさや自然と文化やモノづくりとの深い関わりを感じさせるものです。本展では木漆工芸家としての黒田の創作活動全体を回顧するとともに、今日においても尚、多くの人々を魅了するその仕事を探っていきます。

図4 乾漆耀貝螺鈿食籠 昭和49(1974)年 16.0×26.0×26.0(cm) 国立工芸館蔵
展覧会 生誕120年 人間国宝 黒田辰秋 ―木と漆と螺鈿の旅
京都国立近代美術館
2024年12月17日(火)~2025年3月2日(日)
京都国立近代美術館
(住所)〒606-8344 京都市左京区岡崎円勝寺町26-1
- 問合せ
- 075-761-4111
- 交通
- ■JR・近鉄京都駅前(A1のりば)から
市バス5番 銀閣寺・岩倉行「岡崎公園 美術館・平安神宮前」下車すぐ
■阪急烏丸駅・京都河原町駅、京阪三条駅から市バス5番 銀閣寺・岩倉行
「岡崎公園 美術館・平安神宮前」下車すぐ
■阪急烏丸駅・京都河原町駅、京阪祇園四条駅から市バス46番 祇園・平安神宮行「岡崎公園 美術館・平安神宮前」下車すぐ
■「岡崎公園 ロームシアター京都・みやこめっせ前」下車徒歩約5分
■「東山二条・岡崎公園口」下車徒歩約10分
■地下鉄東西線「東山」駅下車 1番出口より徒歩約10分 - 開館時間
- 火曜日~日曜日 10:00~18:00(入場は閉館30分前まで)
※金曜日は20:00まで(入場は閉館30分前まで) - 休館日
- 毎週月曜日は休館(ただし、2月24日は開館、翌日休館)
- 観覧料
- 一般\1,200(1,000)、大学生\500(400)
※()内は前売りと20名以上の団体及び夜間割引(金曜午後6時以降)
※高校生以下・18歳未満は無料*。
※心身に障がいのある方と付添者1名は無料*。
※ひとり親家庭の世帯員の方は無料*。
*入館の際に証明できるものをご提示ください。
※本料金でコレクション展もご覧いただけます。 - ホームページ
-
https://www.momak.go.jp/Japanese/exhibitionarchive/2024/461.html