2025年2月28日
特別展「ノー・バウンダリーズ」
国立国際美術館 学芸課長 植松由佳
国立国際美術館(大阪)では2月22日から特別展「ノー・バウンダリーズ」が開催されます。
私たちの社会には、さまざまなバウンダリー(境界)が存在します。例えば国境や土地の境界などの物理的なものから、心理的、社会的、文化的なものまで多岐にわたり、私たちの行動、思考、価値観を形成する要素にもなります。また物理的・社会的な境界はグローバル化やテクノロジーの進化によって変容してもいますが、その一方で新たな分断や排除も生まれています。
こうした現代社会において、アーティストは作品や活動を通じアイデンティティ、文化、ジェンダー、物理的空間や時間など、社会において概念化された境界を軽やかに超越し、多様な価値観が交差する場の創出を試みています。

エヴェリン・タオチェン・ワン《トルコ人女性たちのブラックベリー》2023年© Evelyn Taocheng Wang
中国・成都出身オランダ・ロッテルダム在住のエヴェリン・タオチェン・ワンは、多岐にわたるメディアの表現により高い評価を獲得していますが、油彩画《トルコ人女性たちのブラックベリー》では、伝統的な中国の書画と西洋美術の絵画技術を柔軟に取り込むとともに、ジェンダー問題や植民地史をテーマに浮かび上がらせます。
またタイ・バンコク出身在住のアリン・ルンジャーンは、映像《246247596248914102516...そして誰もいなくなった》において、ヒトラーの最後の面会者がタイの民主化革命に関わったメンバーのタイ人であるという歴史的事実と、自身の父親がかつてドイツ企業で働いた経験を持つという私的側面を重ね合わせて、時間そして地理的境界を再構築して見せます。
日本人の両親のもとロサンゼルスに生まれ現在はニューヨーク在住の田島美加は、ジャンル横断的な制作姿勢が見られます。近年はエリク・サティが提唱した生活空間に溶け込む音楽にちなんだ「アールダムーブルモン (Art d’Ameublement)」シリーズや、さまざまな場所、条件下で録音した音源をデジタルデータに変換し、得られた図像データを構図にジャガード織へと変容させる「ネガティブ・エントロビー」シリーズなど、環境、社会、テクノロジーをキーに作品に生成することで高い評価を得ています。

アリン・ルンジャーン《246247596248914102516 ... そして誰もいなくなった》2017年
このように「ノー・バウンダリーズ」展と題した本展覧会では、国立国際美術館が所蔵する約20名の国内外で活躍する現代美術作家による作品を通して、現代社会におけるさまざまな「境界」をテーマに、私たちの日常や価値観がいかに形成されているのかを可視化するとともに、私たちが「境界」と呼ぶ既存の枠組みを解体し、新たな視座の提示を試みます。展覧会を通して、鑑賞者が既成概念を超え、多様性や共生の価値を再認識する機会となることを目指します。

田島美加《アニマ11》2022年Photo by Charles Benton
© Mika Tajima, Courtesy of TARO NASU
特別展 「ノー・バウンダリーズ」
国立国際美術館 B3階展示室
2025年2月22日(土)~2025年6月1日(日)
https://www.nmao.go.jp/events/event/20250222_noboundaries/
国立国際美術館
(住所)〒530-0005
大阪市北区中之島4-2-55
- 問合せ
- 06-6447-4680
- 交通
- ・京阪電車中之島線「渡辺橋駅」(2番出口)から南西へ徒歩約5分
・Osaka Metro四つ橋線「肥後橋駅」(3番出口)から西へ徒歩約10分
・JR「大阪駅」、阪急電車「大阪梅田駅」から南西へ徒歩約20分
・JR大阪環状線「福島駅」から南へ徒歩約15分
・JR東西線「新福島駅」(2番出口)から南へ徒歩約10分
・阪神電車「福島駅」(3番出口)から南へ徒歩約10分
・Osaka Metro御堂筋線「淀屋橋駅」、京阪電車「淀屋橋駅」(7番出口)から西へ徒歩約15分
・大阪シティバス「大阪駅前」から、53号・75号系統で、「田蓑橋」下車、南西へ徒歩約3分 - 開館時間
- 10:00~17:00※毎週金・土曜日は20:00まで※入場は閉館の30分前まで
- 休館日
- 月曜日(ただし2月24日、5月5日は開館)、2月25日、5月7日
- 観覧料
- 一般1,200円(1,000円)、大学生700円(600円)
※( )内は20名以上の団体および夜間割引料金(対象時間:金曜・土曜の17:00-20:00)
※高校生以下・18歳未満無料(要証明)・心身に障がいのある方とその付添者1名無料(要証明)
※本料金で、同時開催のコレクション展もご覧いただけます。 - ホームページ