2025年5月26日
前世紀転換期、ポーランド独立への前奏曲
〈若きポーランド〉-色彩と魂の詩 1890-1918
京都国立近代美術館 研究員 小野真司

スタニスワフ・ヴィスピャンスキ《夜明けのプランティ公園》1894年、個人蔵(クラクフ国立博物館寄託)
1795年、国土をロシア、プロイセン、オーストリアに分割されて以降、123年間独立を失ったポーランド。この間、自由や独立を求める蜂起や暴動が何度も発生するもののすべて失敗に終わってしまいます。この苦難の時代、ポーランドの人びとは自らのアイデンティティを美術・文学・音楽などの文化・芸術に求めました。本展はポーランド独立前夜、19世紀末から20世紀初頭に活躍した〈若きポーランド〉の芸術家たちに焦点を当てた日本で初めての展覧会です。

ヤン・マテイコ《1683年、ウィーンでの対トルコ軍勝利伝達の教皇宛書簡を使者デンホフに手渡すヤン3世ソビェスキ》1880年、クラクフ国立博物館蔵
〈若きポーランド〉の中心地がポーランドの古都クラクフです。当時クラクフを支配していたオーストリア帝国(1867年からはオーストリア=ハンガリー二重君主国)は、ロシア帝国やプロイセン王国(1871年からはドイツ帝国)に比べて政治的・社会的に寛容な姿勢をとっており、自治権やポーランド語での教育が認められていました。こうした気風が新しい芸術を生み出す基礎となります。1873年に開校したクラクフ美術学校の校長を務めたヤン・マテイコはポーランドの歴史を劇的に描き、当時の人びとの心を動かしました。そして彼の門下生をはじめとした次世代の画家たちは、ポーランドの現状と向き合うために、あるいは自らの心の状態を描き出すために、マテイコのような伝統的な手法ではなく、新しい表現へと舵を切ります。

オルガ・ボズナンスカ《菊を抱く少女》1894年、クラクフ国立博物館蔵

ヤツェク・マルチェフスキ《フェリクス・ヤシェンスキの肖像》1903年、クラクフ国立博物館蔵
ヤツェク・マルチェフスキ、ユゼフ・メホッフェル、ユリアン・ファワト、スタニスワフ・ヴィスピャンスキ、ユゼフ・パンキェーヴィチ、ヴワディスワフ・ポトコヴィンスキ、ヤン・スタニスワフスキ、ヴォイチェフ・ヴァイス、オルガ・ボズナンスカ――〈若きポーランド〉と呼ばれた彼らは、印象派をはじめとした同時代の西欧の芸術を吸収し、浮世絵などの日本美術も参照しながら、象徴性に富んだ独自の芸術を生み出しました。芸術批評家で日本美術の大コレクターでもあったフェリクス・“マンガ”・ヤシェンスキはパトロンとして彼らを支え、彼の日本美術コレクションは芸術家たちにとって重要な霊感源となりました。また彼らは農村や山岳地帯に残る伝統や習俗にも着目し、それを絵画、グラフィック、家具、テキスタイル、服飾品などに反映させ、新しい「国民様式」を模索しました。
![スタニスワフ・ヴィスピャンスキ[デザイン]/アンジェイ・スィドル[製作]《椅子:ゾフィア&タデウシュ・ジェレンスキ夫妻邸の食堂のための家具セットより》1904-1905年、クラクフ国立博物館蔵](img/img-127-05.jpg)
スタニスワフ・ヴィスピャンスキ[デザイン]/アンジェイ・スィドル[製作]《椅子:ゾフィア&タデウシュ・ジェレンスキ夫妻邸の食堂のための家具セットより》1904-1905年、クラクフ国立博物館蔵
1918年、第一次世界大戦の終結によりポーランドは念願の独立を回復します。しかし同時に、亡国状態の中、自らのアイデンティティを芸術に見出した〈若きポーランド〉の時代も終わりを迎えるのです。前世紀転換期、ポーランドで生み出された多彩な作品の数々を、まずはじっくりと観察し、作品の背景にある文脈も考えながら鑑賞していただければ幸いです。そしてポーランドの文化や歴史に関心を抱くきっかけになれば嬉しいです。
〈若きポーランド〉-色彩と魂の詩 1890-1918
開催期間 2025年3月25日(火)~6月29日(日)
京都国立近代美術館
(住所)〒606-8344 京都市左京区岡崎円勝寺町26-1
- 問合せ
- 075-761-4111
- 交通
- <市バスご利用の場合>
■JR・近鉄京都駅前(A1のりば)から
市バス5番 銀閣寺・岩倉行「岡崎公園 美術館・平安神宮前」下車すぐ
市バス105番 平安神宮・銀閣寺行「岡崎公園 美術館・平安神宮前」下車すぐ(105番は土曜日・休日のみ運行)
■JR・近鉄京都駅前(D2のりば)から
市バス86番 清水寺 祇園・平安神宮行「岡崎公園 美術館・平安神宮前」下車すぐ
■JR・近鉄京都駅前(D1のりば)から
市バスEX100番(観光特急)清水寺・銀閣寺行「岡崎公園 美術館・平安神宮前」下車すぐ(100番は土曜日・休日のみ運行) - ■阪急烏丸駅・京都河原町駅、京阪三条駅から
市バス5番 銀閣寺・岩倉行「岡崎公園 美術館・平安神宮前」下車すぐ - ■阪急烏丸駅・京都河原町駅、京阪祇園四条駅から
市バス46番 祇園・平安神宮行「岡崎公園 美術館・平安神宮前」下車すぐ - ■市バスその他系統
「岡崎公園 ロームシアター京都・みやこめっせ前」下車徒歩約5分
「東山二条・岡崎公園口」下車徒歩約10分 - <地下鉄ご利用の場合>
■地下鉄東西線「東山」駅下車 1番出口より徒歩約10分 - 開館時間
- 火曜日~日曜日 10:00~18:00(入場は閉館30分前まで)
※金曜日は20:00まで(入場は閉館30分前まで) - 休館日
- 毎週月曜日(月曜日が休日に当たる場合は、翌日が休館)
- 観覧料
- 一般:2,000円(1,800円)、大学生:1,100円(900円)、高校生:600円(400円)
※()内は20名以上の団体
※中学生以下は無料*。
※心身に障がいのある方と付添者1名は無料*。
※ひとり親家庭の世帯員の方は無料*。
*入館の際に証明できるものをご提示ください。
※本料金でコレクション展もご覧いただけます。 - ホームページ
-
https://www.momak.go.jp/Japanese/exhibitionarchive/2025/462.html