2025年6月30日
非常の時代を生き延びるために
国立国際美術館 主任研究員 橋本 梓

米田知子《絡まった有刺鉄線と花(非武装地帯近く・チョルウォン・韓国)I》2015年 作家蔵 Copyright the artist Courtesy of ShugoArts
私たちは今、地震や洪水といった自然災害、戦争や政変、そしてパンデミックのような出来事が次々と起こる中で、いつの間にかいつも非常時のような毎日を生きるようになっています。見知らぬ土地へ避難せざるを得ない人、突然の感染症におびえる人々、そしてインターネットを通じてどこまでが本当なのかわからない情報が飛び交う現代。私たちの暮らしは、常に不安とともにあります。
こんな時代に、芸術はどんなことができるのでしょうか。本展では、8人の作家たちが、それぞれの作品を通して私たちの抱える不安や混乱と向き合い、これからを考えるヒントを差し出します。
丁寧な調査をした後に写真作品を制作する米田知子は、目には見えない記憶や歴史を静かに映し出します。袁廣鳴(ユェン・グァンミン)は、戦争やエネルギーの問題が日常と隣り合わせにあることを、細やかな映像で表現します。クゥワイ・サムナンは、自身の体を使った表現で、カンボジアの自然や社会が抱える問題を、ユーモアを交えて語りかけます。

袁廣鳴(ユェン・グァンミン)《日常戦争》2024年 国立国際美術館蔵 ©Yuan Goang-Ming Courtesy the artist and TKG+

クゥワイ・サムナン《Untitled》2011-13年 国立国際美術館蔵 ©Khvay Samnang
シプリアン・ガイヤールは、かつて栄えた都市や文明の変容に関心を寄せ、過去と現在のつながりを映像でたどります。高橋喜代史は、対話や身近な関係を通じて、社会の問題を見つめ直そうとします。潘逸舟(ハン・イシュウ)は、自身の移住経験をもとに、体を使った映像作品で、個人の経験と社会との関わりを描きます。
キム・アヨンは、配達ビジネスなどインターネットの仕組みを使った短期的な仕事に頼る現在の労働や、情報に支配される社会の矛盾を、未来の都市のような映像で表現します。そして最後に、リー・キットは、映像や光、言葉などを使って、不安や悲しみ、怒りといった心の奥にある感情を、静かに、そして詩のように表します。

キム・アヨン《デリバリー・ダンサーズ・スフィア》2022年 国立国際美術館蔵 ©Ayoung Kim Courtesy the artist
この展覧会は、混乱が続く世界の中で、私たちが何を信じ、どのように生きていくかを、芸術を通じて考えるための場です。想像する力を働かせながら、明日を生きる希望を探していきましょう。
イベント名 非常の常
開催期間等 2025年6月28日(土) - 10月5日(日)
イベントURL https://www.nmao.go.jp/events/event/20250628_hijou-no-jou/
国立国際美術館
(住所)〒530-0005
大阪市北区中之島4-2-55
- 問合せ
- 06-6447-4680
- 交通
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- 10:00-17:00、金曜・土曜は20:00まで
※入場は閉館の30分前まで - 休館日
- 月曜日(ただし7月21日、8月11日、9月15日は開館)、7月22日、8月12日、9月16日
- 観覧料
- 一般1,500円(1,300円)、大学生900円(800円)
※( )内は20名以上の団体料金および夜間割引料金(対象時間:金曜・土曜の17:00-20:00)
※高校生以下・18歳未満無料(要証明)
※心身に障がいのある方とその付添者1名は無料(要証明)
※本料金で、同時開催の「コレクション1」もご覧いただけます - ホームページ