2025年8月27日
森田芳光、変貌への意志
国立映画アーカイブ 主任研究員 岡田秀則

展覧会チラシ
自らのスタイルを洗練させてゆく映画作家ではない。常に、「今」とは異なる映画監督になろうと自身の在り方を更新する、それが森田芳光(1950-2011)という監督の流儀である。自主映画の作り手として1970年代に頭角を現したのち、1981年に初の劇場公開作『の・ようなもの』を送り出してから約40年の間、喜劇、アイドル映画、文芸作、恋愛映画、法廷劇、ホラー映画、ミステリー映画、時代劇とジャンルの垣根を取り払い、文体においても似たような映画を送り出したことはなかった。日本映画史全体で考えても、このような変貌の意志を感じさせる監督は巨匠川島雄三ぐらいしか思い浮かばない。ただ川島は含羞の《戯作者》だったのに対し、森田はむしろ一貫した《冒険者》であり続けた。

『それから』撮影中の森田芳光(1985年) 篠山紀信撮影
そんな放射的な作風にもかかわらず、「森田組」と呼ばれる当時のスタッフ陣の結束は今でも固い。そのスタッフの全面協力のもと、森田の独特な作品世界に迫ろうと造形された展示空間には、その着想の場だった伊豆の書斎も再現されている。マルチプルな関心をうかがわせる蔵書、ジャズなど愛聴したレコードも一同に会し、絶えずアイデアが渦巻いた監督の頭の中を覗くような楽しみもある。『黒い家』(1999年)や『間宮兄弟』(2004年)など、話題作に出現した小道具も登場するほか、監督の没後フランス、アメリカ、台湾や韓国など外国の映画団体から熱心な上映の呼びかけがあり、現在の国際的評価もポスターや映像で紹介されている。

『家族ゲーム』(1983年) 小道具 インテリアコースター 森田芳光事務所所蔵
代表作といえば、やはり、破天荒な家庭教師(松田優作)が受験生のいる一家を大混乱に陥れる初期作品『家族ゲーム』(1983年)になるだろう。やや浮かれた1980年代の世情の中に虚ろさが漂う、そんな社会のきしみが色濃く匂う一本だ。展覧会では、あの「沼田家」がみんな横並びに食事をとるあの不可思議なビジュアルを再現しようと、当時の映画美術監督の再制作したテーブルが入口に置かれる。家族でなくてもよいので、4人組で記念写真を撮っていただけると、あなたも「沼田家」の一員になれるはずだ。

『未来の想い出 Last Christmas』(1992年)劇中キャラクターのぬいぐるみ
杉山泰一氏所蔵
会期中は、森田の公私にわたるパートナーとして作品を送り出してきた映画プロデューサーの三沢和子氏や、森田映画フリークであり三沢氏と大著『森田芳光全映画』を編纂したラッパー、ラジオパーソナリティのライムスター宇多丸氏によるトークイベントも開催される。10月14日からは、大半の作品を網羅する監督特集もスタートするので、併せてご覧いただきたい。
企画展「映画監督 森田芳光」
会場 :国立映画アーカイブ 展示室(7階)
会期 :2025年8月12日(火)~11月30日(日)
開室時間:11:00-18:30(入室は18:00まで)
*9/26、10/31、11/28の金曜日は11:00-20:00(入室は19:30まで)
休室日:月曜日、8月26日(火)~9月5日(金)、10月7日(火)~12日(日)
企画展観覧料:一般500円(400円)/大学生300円(240円)
・65歳以上、高校生以下及び18歳未満、障害者手帳をお持ちの方(付添者は原則1名まで)、国立映画アーカイブのキャンパスメンバーズは無料。
・料金は常設の「日本映画の歴史」の入場料を含みます。
・( )内は20名以上の団体料金です。
・学生、65歳以上、障害者手帳をお持ちの方、キャンパスメンバーズの方はそれぞれ入室の際、証明できるものをご提示ください。
・国立映画アーカイブが主催する上映会の観覧券(オンラインチケット「購入確認メール」またはQRコードのプリントアウト)をご提示いただくと、1回に限り団体料金が適用されます。
URL: https://www.nfaj.go.jp/exhibition/morita2025/
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火曜日~日曜日
展示室: 11:00~18:30(入場は閉館30分前まで)
毎月末金曜日は11:00 – 20:00(入室は19:30まで) - 休館日
- 毎週月曜日、上映準備・展示替期間、年末年始
- 観覧料
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<常設展示>
一般250(200)円/大学生130(60)円
• 高校生以下及び18歳未満、65歳以上、障害者手帳をお持ちの方(付添者は原則1名まで)は無料
• 国立映画アーカイブのキャンパスメンバーズは無料
• ( )内は20名以上の団体料金。
• 学生、65歳以上、障害者手帳をお持ちの方、キャンパスメンバーズの方は、証明できるものをご提示ください。
• 国立映画アーカイブの上映観覧券(観覧後の半券可)をご提示いただくと、1回に限り団体料金が適用されます。
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<企画展、特別上映等>
企画によって異なります。