2025年10月28日
変幻自在の堂本印象
京都国立近代美術館 主任研究員 平井啓修
堂本印象は近代日本画壇における重要な日本画家の一人であり、近代京都画壇を牽引した作家です。印象は政府主催の官展と呼ばれる展覧会を中心に活躍しましたが、画壇デビューするまでは苦難の日々を過ごしています。酒造業を営む家に生まれましたが、彼が10代後半の時に経営がうまくいかなくなってお店が閉店し、その後父親も亡くなっています。印象は家計を支えるために京都で織物業を営んでいた龍村平藏のもとで図案家として働き、内職もしながら、画家としての修練も欠かすことはありませんでした。当時の印象はコマ絵と呼ばれる雑誌などの挿絵のような作風で絵を描いていました。
『いの字絵本 恋の都大阪の巻』 大正元年(1912) 京都国立近代美術館蔵
印象の働きぶりに目をつけた龍村から支援を受け、京都市立絵画専門学校へ進学した印象は、入学した翌年には第1回帝国美術院美術展覧会(帝展)に入選して画壇デビューを果たします。ここから印象は一気に画壇を駆け上がります。第3回帝展で特選を受賞し、第4回帝展では鑑査なしで帝展に出品する資格を得たのち、第6回帝展に出品した《華厳》で帝国美術院賞を受賞して画壇での地位を確立しました。《華厳》は縦横ともに約3メートルという大作であり、作品の質の高さはもちろんのこと、その大きさでも話題となりました。
《華厳》 大正14年(1925) 東大寺蔵
画壇でその実力が認められた印象のもとには数多くの制作依頼が舞い込みました。特に寺社からの襖絵や壁画の制作依頼は多く、東寺や智積院、法然院などでは現在でも大切に守り伝えられています。この時期の印象は《兎春野に遊ぶ》のように細密な具象画を描いていましたが、戦後にヨーロッパ各地を巡り、さまざまな美術作品に触れることで、その画風は一変します。
《兎春野に遊ぶ》 昭和13年(1938) 京都府立堂本印象美術館蔵
モンドリアンやクレーのような色面による構成主義的な抽象画を経て、墨の線を主体とする躍動感のある抽象画を完成させました。フランス人美術評論家のミシェル・タピエは、明確な形を持たない抽象美術をアンフォルメルという概念でまとめましたが、印象のこの時期の作風はこの概念に呼応するものでした。二人は昭和32年(1957)に出会った後、昭和36年(1961)にはタピエが印象の個展をイタリアのトリノで企画するなど交友が続きました。この個展には、抽象画の代表作として知られる《風神》など約50点が出品されました。
《風神》 昭和36年(1961) 京都府立堂本印象美術館蔵
一人の画家がこれほどまでに画風を変化させることは珍しく、同じく画風をさまざまに展開していったことで有名なピカソになぞらえて語られることもあります。確かに印象はピカソと同様に陶芸作品も手がけており、最後には自身の美術館を建設するという規格外の情熱を持った作家でした。
《郊外》 昭和43年(1968) 京都府立堂本印象美術館蔵
展覧会ではここで紹介した作品のほかにも数多くの代表作を一堂に集結させ、印象の画業の全貌に迫るとともに絵画以外の制作についても紹介しています。
没後50年 堂本印象 自在なる創造
2025年10月7日(火)~11月24日(月・休)
*会期中、一部展示替えがあります
前期:10月7日~11月3日/後期:11月5日~11月24日
https://www.momak.go.jp/Japanese/exhibitionarchive/2025/464.html
京都国立近代美術館
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