2026年1月22日
「勇ましさ」の枠の外にあった風景
東京国立近代美術館 主任研究員 成相肇
美術の歴史に名を刻まれた作家、展覧会に取り上げられる作家、あるいは美術館の収集作品などにおいて、男性に偏りがちだった観点を見直そうとする動きは、近年いっそう高まりつつあります。そのような社会的背景を踏まえた企画が何かできないかと考えていた時に出会った本が、中嶋泉さんの書籍『アンチ・アクション:日本戦後絵画と女性画家』(ブリュッケ、2019年)でした。
趣旨を要約すると次のような内容です──1950年代後半から60年代にかけての時期の日本の美術潮流を調べてみると、抽象絵画の分野で少なくない数の女性美術家が注目されていた。これを後押ししたのは「アンフォルメル」と呼ばれた、描画方法や物質感に特に着目する新しい抽象芸術運動であった。しかしわずか数年のうちに、その運動に根深く残る西洋中心主義や提唱者の独善性を疑問視する声が起こり、美術批評家たちは距離を置くようになる。と同時に、その頃新たに流入してきた別の美術動向「アクション・ペインティング」(画面は画家の理念を投影する対象ではなく、画家の行為の痕跡を示す場とみなす様式概念)が評価されるようになった。その「アクション」という言葉に引きずられて、批評家たちの視線は勇ましい男性美術家に集中していく。気づけば、せっかく台頭していた女性たちはその視線の外に追いやられていくことになってしまった。
わずかな言葉のシフトによって、男女をめぐる大きな転換が起こっていたのです。戦後の前衛芸術を学んでいた私自身、その事実に気づいていませんでした。この本の明確な筋立てに感銘を受け、それに沿ってつくられたのが、今回の展覧会「アンチ・アクション 彼女たち、それぞれの応答と挑戦」です。
学術協力者として中嶋さんをお迎えし、豊田市美術館、兵庫県立美術館、東京国立近代美術館の3つの美術館の担当者で、「アンフォルメル」ブームの中で注目された14名の女性美術家を選びました。実際に作品を集めて会場に並べてみると、これまで戦後美術史として中心的に語られてきた特徴、すなわち豪快さや激しさ、あるいは傍若無人さといった勇猛な印象とはまったく異なる風景が現れました。画面にぶつかるような「アクション」には回収され得ない方法を「彼女たち」は模索し、独自の道を切り開いていたのです。その一人一人が開発した手法や、作品の魅力的な物質感が、あらためて評価すべき対象として見えてきました。
作家や作品に対する評価というものはときに時代に強く縛られてしまうということを念頭におきながら、埋もれていた表現に再度光が当てられるこの機会を、ぜひご覧ください。
山崎つる子 《作品》 1964年 芦屋市立美術博物館蔵
© Estate of Tsuruko Yamazaki, courtesy of LADS Gallery, Osaka and Take Ninagawa, Tokyo
赤穴桂子 《スペースに於ける物体》 1958年 個人蔵
宮脇愛子 《作品》 1967年 撮影:中川周
企画展 「アンチ・アクション 彼女たち、それぞれの応答と挑戦」
2025年12月16日(火)~2026年2月8日(日)
https://www.momat.go.jp/exhibitions/566![]()
企画展観覧料:一般2,000円(1,800円) 大学生1,200円(1,000円)
*いずれも消費税込。
*()内は20名以上の団体料金。
*高校生以下および18歳未満、障害者手帳をご提示の方とその付添者(1名)は無料。
それぞれ入館の際、学生証等の年齢のわかるもの、障害者手帳等をご提示ください。
*本展の観覧料で入館当日に限り、同時開催の所蔵作品展「MOMATコレクション」(4-2F)もご覧いただけます。
東京国立近代美術館
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