2026年5月28日
チュルリョーニス展 内なる星図
国立西洋美術館学芸課研究員 朝倉南
ミカロユス・コンスタンティナス・チュルリョーニス。バルト海東岸、森と湖の国リトアニアを代表する国民的芸術家です。1875年に生まれた彼は、はじめ作曲を学びますが、やがて絵画の道へと惹かれ、35歳で亡くなるまでの約6年の画業で、300点以上の作品を手がけました。
《フーガ [二連画「プレリュード、フーガ」より]》1908年、テンペラ/紙 国立M. K. チュルリョーニス美術館(カウナス)所蔵 M. K. Čiurlionis National Museum of Art, Kaunas, Lithuania.
その評価を確かなものとしているのが、「ソナタ」や「プレリュードとフーガ」といった絵画連作にみられる音楽様式の導入です。同時代にも絵画と音楽の融合を試みた画家は少なくありませんが、チュルリョーニスの独創性は、音楽の構造を絵画の構造に取り入れようとした点にあります。
《フーガ[二連画「プレリュード、フーガ」より]》では、湖畔のモミの木が主題となり、変奏を伴いながら反復され、次第に大きく、小さく、まばらとなって、音楽性を喚起します。画面は水平に分割された層から構成され、これら複数の独立した層、すなわち声部が、音楽における対位法のように共鳴し、ポリフォニーの響きを生み出しているのです。
ソナタ形式の絵画連作においては、アレグロやアンダンテなど、各楽章に対応する複数の画面から構成されています。チュルリョーニスのソナタ連作は計7作が知られていますが、本展ではそのうちの3作、《第3ソナタ(蛇のソナタ)》《第5ソナタ(海のソナタ)》《第6ソナタ(星のソナタ)》をご紹介します。
《リトアニアの墓地》1909年、テンペラ/厚紙 国立M. K. チュルリョーニス美術館(カウナス)所蔵 M. K. Čiurlionis National Museum of Art, Kaunas, Lithuania.
チュルリョーニスが生きた20世紀初頭、リトアニアは激動の時代にありました。ロシア帝国の支配下で民族解放運動が高まるなか、彼は祖国の豊かな自然や民俗文化をしばしば着想源としています。例えば、《リトアニアの墓地》では、北斗七星が輝く空のもと、十字架のシルエットがリズミカルに並んでいます。装飾豊かな伝統的十字架は、民族的アイデンティティの象徴として弾圧を受けましたが、同時に民族独立を象徴するイメージともなりました。そこには、リトアニア民族の記憶と結びついた精神的風景が表れています。
《レックス(王)》1909年、テンペラ/カンヴァス 国立M. K. チュルリョーニス美術館(カウナス)所蔵 M. K. Čiurlionis National Museum of Art, Kaunas, Lithuania.
こうした民族性と同時に、彼は当時の国際的な思想潮流にも関心を寄せ、その作品は人間の精神世界や宇宙の神秘をめぐる深い思索に満ちています。最大の野心作《レックス(王)》は、星々や木々、天使たちといったモティーフが層のように積み重ねられ、これらを垂直に統合する宇宙の軸のようにして透明な王が玉座に座り、さらに影の王がそれを包み込んでいます。このふたりの王は、すべてを包み込む存在を示し、繊細な空間はまるで壮大な交響詩のように響き渡る印象を生み出しているといえるでしょう。日本初公開となる《レックス(王)》をはじめ、近年、国際的評価が高まるチュルリョーニスの幻想的世界を、ぜひ会場でご堪能ください。
チュルリョーニス展 内なる星図
2026年3月28日[土]-6月14日[日]
https://2026ciurlionis.nmwa.go.jp/![]()
一般¥2,200, 大学生¥1,300, 高校生¥1,000, 中・小学生 無料
※中学生以下、障害者手帳*をお持ちの方とその付添者1名は無料(入館の際に学生証等の年齢の確認できるもの、障害者手帳等をご提示ください)
*対象となる手帳:身体障害者手帳・ 療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳
国立西洋美術館
〒110-0007 東京都台東区上野公園7番7号
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京成電鉄京成上野駅下車 徒歩7分
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※美術館には駐車場はございません。来館の際は公共交通機関をご利用ください。 - 開館日・時間
- 2026年3月28日[土]-6月14日[日]
9:30~17:30(金・土曜日は~20:00)
※入館は閉館の30分前まで - 休館日
- 毎週月曜日
