2018年5月9日
「小春日和」はいつ頃の天気か。
文化部国語課
「小春日和の暖かな1日でした。」とお天気キャスターが話しています。「小春日和」とは,どんなときに使う言葉なのでしょうか。
- 問1
- 「小春日和」とは,どのような気候のことを言うのでしょうか。
- 答
- 晩秋から初冬の頃の,穏やかで暖かな天気のことです。「春」という言葉が使われていますが,春の天候ではありません。
「小春日和」の意味を辞書で調べてみましょう。
「明鏡国語辞典」第2版 (平成22年 大修館書店)
こはる-びより【小春《日和》】
初冬のころの,暖かくて穏やかな天気。
「三省堂国語辞書」第7版 (平成26年 三省堂)
こはるびより【小春日和】
十一月から十二月にかけての,よくはれた春のような感じがする,あたたかいひより。「―のおだやかな日」
続いて,実際の用例を文学作品から見てみましょう。堀辰雄の小説と島崎藤村の随筆からの引用です。
冬はすぐ其処まで来ているのだけれど,まだそれを気づかせないような温かな小春日和が何日か続いていた。
堀辰雄 「菜穂子」 (昭和16年)
秋から冬に成る頃の小春日和は,この地方での最も忘れ難い,最も心地の好い時の一つである。
島崎藤村 「千曲川のスケッチ」 (明治44年)
辞書や実際の用例からも分かるとおり,「小春日和」は,秋の終わりから冬の始め頃に掛けての,穏やかで暖かな気候を指す言葉です。兼好による「徒然草」の155段には「十月は小春の天気,草も青くなり梅もつぼみぬ。」(訳:(陰暦)10月は春のような暖かな気候で,草も青くなり梅もつぼみを付けた。)という一文があります。春のように温暖な様子が「小春」と呼ばれ,それが陰暦の10月の別称としても使われるようになったのです。陰暦10月は,現在で言うと,おおよそ11月から12月上旬に当たります。「日和」には「天候」「空模様」や「晴天」といった意味があります。
- 問2
- 「小春日和」について尋ねた「国語に関する世論調査」の結果を教えてください。
- 答
- 本来の意味とされる「初冬の頃の,穏やかで暖かな天気」と答えた人が5割強であったのに対し,「春先の頃の,穏やかで暖かな天気」と答えた人が4割強でした。また,年代によって理解の仕方に違いが見られます。
平成26年度の「国語に関する世論調査」で,「小春日和」の意味を尋ねました。結果は次のとおりです。(下線を付したのが本来の意味とされるもの。)
- 〔全体〕
- (ア)初冬の頃の,穏やかで暖かな天気・・・・・・・ 51.7%
- (イ)春先の頃の,穏やかで暖かな天気・・・・・・・ 41.7%
- (ア)と(イ)の両方・・・・・・・・・・・・・・・ 3.1%
- (ア)や(イ)とは全く別の意味・・・・・・・・・・ 1.8%
- 分からない・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1.8%
全体の調査結果を見ると,本来の意味とされる(ア)「初冬の頃」を選んだ人が5割強(51.7%)と過半数となっていますが,(イ)「春先の頃」を選んだ人も4割を超えており(41.7%),その差は10ポイントです。
[年齢別グラフ]

年齢別に見ると,30代以上では,本来の意味である(ア)を選択した人の方が多く,特に50代と60代では,他の年代よりもその割合が高くなっています。他方,20代以下の若い年代では,(イ)の方が多く選択されています。若い年代を中心に,「小春日和」の本来の意味が理解されにくくなっていることがうかがえます。
そもそも,現代においては,陰暦の10月を指した「小春」という言葉が日常生活の中で使われることはほとんどありません。辞書には「小春風」「小春空」「小春凪」といった言葉も見付かりますが,俳句の季語として用いられることなどはあっても,ふだんこうした言い方を聞くことはなかなかないでしょう。「小春日和」は比較的よく使われるものの,知識がなければ「春」という語の印象に引きずられて,「春先の頃の」といった受け止め方をしてしまうこともありそうです。
一方で,「小春日和」という言葉は,文学作品や歌などによく用いられてきたので,それらを通してこの言葉を知った人もいるでしょう。例えば,1970年代の後半に,さだまさしさんの作詩作曲による「秋桜(コスモス)」が山口百恵さんの歌でヒットしました。タイトルのとおり,コスモスの咲く秋が舞台になっており,結婚を翌日に控えた娘とその母親との,小春日和の一日の様子が描かれています。上記の調査よりも40年近く昔の歌ですが,本来の意味を知っている人が多い50代,60代の人たちの中には,この歌のさわり(聞かせどころ)に現れる「小春日和」という言葉から,その意味を学んだ人がいるかもしれません。
なお,近年,春先でないことは理解した上で,陰暦10月頃(11月~12月上旬)に限らず,寒さの厳しい1月や2月に訪れる暖かな日についても「小春日和」を使う傾向が生じています。「小」には,接頭語として名詞の上に付いて,「小石」「小雨」などのように,物事の量や程度の小ささを表す使い方があり,「小春」はそういった用法の周縁にあるものと言えるでしょう。似た表現に「小江戸」があります。埼玉県川越市や千葉県香取市などが小江戸と呼ばれますが,もちろん,それらの土地は「江戸」そのものではなく,「江戸のように栄えた町」といった意味でそう言われています。「小春」という語だけを見れば「春そのものではないけれども春のような気候」と読み取れるでしょう。本来は,真冬などには使われなかった言葉ですが,陰暦10月の別名であったことを知らなければ,1月や2月にもたまに訪れる暖かな日に「小春日和」と言ってしまうのも分からないではありません。