2015年1月23日
会津の初市
~雪国の新春の風物詩~
福島県立博物館 副主任学芸員 内山大介
福島県会津地方では,正月に各地で初市が開かれます。冬の会津は雪に覆われる寒い季節ですが,毎年この日ばかりは町に多くの人々が出て賑わいます。中でも会津若松市で行われる市が最も規模が大きく,1月10日に行われるため「十日市」と呼ばれて親しまれてきました。十日市は農村と若松城下の人々の交流の場で,近郊の農家が付き合いのある商店などに年始の挨拶回りに行く日でもありました。そのため,かつては農家の人々が必要とする農具や鍋や釜といった生活用品が多く売り出されていましたが,現在では食品や子供の玩具などを扱う露店が多くなっています。
またこの初市に出かける人々のお目当ては,そこで売られる民芸品の起きあがり小坊師や風車,だるま,初音(小さな竹の笛)などの縁起物です。
転んでもすぐ起きあがる起きあがり小坊師は家族の人数より一個多く買うのが習わしで,家族の健康や子孫繁栄の祈りが込められていますし,風車は仕事やお金がよく回るようにという縁起を担いだものです。現在でも会津の多く家の神棚にはこれらの縁起物が飾られていて,前年に買い求めたものは小正月に行われるサイノカミ(どんど焼き)でお炊き上げをします。

縁起物を買い求める人々
会津の初市の大きな特徴は,買物をするだけでなく「市神」に参拝する慣習のあることでしょう。例えば十日市では,附近の神社から市神が勧請されて市の南北の端にその時だけの仮宮が建てられます。ここではお札などのほか,藁つとに入った市塩と呼ばれる塩を買い求め,かつてはこれを囲炉裏やかまどなどの家の中で火を使う場所にまいて清めました。

会津若松市・十日市の市神
更に会津坂下町や会津美里町の初市では大きな俵につけた縄を引き合って,その年の吉凶や農作物の豊凶を占う俵引きの神事が行われています。会津坂下町の俵引きは正月十四日の初市で行われますが,市の中央に祀られた市神の祠の前で,ふんどし姿の男性が東西に分かれて大きな俵を引き合います。西が勝つと豊作に恵まれ,東が勝つとお米の値段が上がると言われていて,かつては他の初市でも同様の行事が行われていました。

会津坂下町の初市・大俵引き
江戸時代(貞享2年)の記録には既に若松城下の十日市のことが記されていて,市神や俵引きについての記述もあります。一説には400年前から続く行事であるともいわれ,古くから会津の初市には様々な文化が息づいてきました。昔も今も,会津の新しい年はこの初市から始まると言っていいでしょう。