2015年10月13日
中世の「宮座」の面影を伝える行事
~久井稲生神社の御当~
三原市教育委員会 文化課 文化財係長 時元省二
久井稲生神社は,広島県の南東部,三原市久井町に所在し,むらを一望に見渡せる高台にあります。中世のこの辺りは「杭荘」と呼ばれ,近世には江木・下津・吉田・莇原・羽倉・和草・黒郷・泉の各村に分かれていました。
この神社では,毎年10月19日に近い日曜日に秋の例祭が開催され,「御当」と呼ぶ行事が行なわれます。この行事は,御当主(東西両座各48人)で構成され,触れ頭が行事の2か月前にその年の当番主となる2名に当番であることを伝えます。当番主に選ばれると御当田でとれた新穀を神饌米として新酒(甘酒)を醸造します。
当日の行事次第をみると,午前の祭典に引き続き午後にまず見子の当(社家社人の座)が神楽殿であり,次いで東座(領家分の座)が東庭,西座(地頭分の座)が西庭で行われます。見子座は18席で構成され,皿2枚と箸をおいた膳がまず配られます。その後,給仕役から赤飯が配られたのち,座頭(神主)の挨拶となります。
東座は,莚40枚を長方形に敷き,皿2枚と桧の葉1枚と箸を置いた膳を48席を設けます。その後,御当主が所定の席へ着きます。当番主2人が供人を従え,清酒2升・まな板にのせた大鯛2尾等を神前に献じ,その後大鯛は御当座へ渡されます。据え方は,鯛がのったまな板を目線の高さにささげながら,包丁方まで運びます。

東座の様子
包丁方は,包丁と金箸で鯛を「亀の入首」「鶴の羽替えおとし」の形に仕上げます。給仕役が清酒をそそぎ,次いで大根ナマス・鯛のさしみ等を配り会食となります。

包丁方の様子
西座は,莚40枚を三角形に敷き,皿2枚と箸を置いた膳を48席を設けます。進行などは東座と同じですが,大鯛が姿造りでなく刺身に仕上げ,ゆずを搾り,塩,大根ナマスと和えて給仕します。

西座の様子
この行事は,御当という氏子を中心とした祭祀組織の仕組みと一連の行事であり,慶長3年(1598) の『稲荷御当之覺』の記録とほぼ近い形で今日も行われています。このように古式をよく伝えている貴重な行事といえることから,昭和56年12月に記録作成等の措置を講ずべき無形民俗文化財に選ばれました。