2017年11月2日
大島半島のニソの杜の習俗
福井県教育庁生涯学習・文化財課学芸員 高橋史弥
ニソの杜は福井県おおい町の大島半島東部に位置し,11月23日にこの地域の人々が祭祀を行う場所のことを言います。
ニソの杜は,一つ一つに個別の名前が与えられ,それぞれの杜の祭祀を担当する家によって守られてきました。一つの杜に対し複数の家が持ち回りで祭祀している場合もあります。ただ,祭祀者がいなくなったことや,道路の開発の影響などで,30か所以上あった杜は,祭祀が続けられているものが平成29年現在23か所まで減少しています。
ニソの杜はこの地区の開発に当たった24家の先祖を祀っていると伝承されています。ニソの語源は諸説あり確定はされていませんが,例えば柳田國男(民俗学創生の中心となった人物)は今の兵庫県周辺で11月23日をニジフソと称して,変わった食物を用意することと関係していると言っています。

ニソの杜への祈り
ニソの杜の祭祀をするためには,海から砂や海藻を集めてくる準備作業から始められ,家では小豆入りの強飯(餅米を蒸して作ったもの)や,とろっとした粢(生米を水に浸した後砕いたものを使って作ったもの)を作ります。これらの下準備が終わると,家人二人で杜に行き,海岸で拾った砂や海藻を撒いて清めます。杜の中にはお札の入った祠が設置されており,御幣を立て,祠の前に藁苞(藁で作った容器)を置き,粢を乗せた強飯を供えます。酒が供えられる場合もあり,これら供え物の形は各家によって多少の違いがあります。準備がすむと,家人により祈りが捧げられ,祭祀は終了します。供え物は猿や鳥に食べられてなくなることを「オトが上がる」と言って,よいこととされています。どのようによいことであるかは,現在伝承されていません。

ニソの杜の祠
かつては人目につくことを嫌い,まだ暗いうちに行われていたということです。時期は不明ですが,近年では未明に行うことがたいへんである,という理由から明るくなってから行うように変更している杜もあります。祭祀の日以外の杜への侵入や木を切ることは固く禁じられており,禁を犯すと怪我や病気があると恐れられ今でもその禁忌が守られています。
大島半島のニソの杜の習俗は,平成22年3月11日に記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財に選択され,おおい町では平成27年度からこの記録作成のための調査を国庫補助の下,進めています。調査は平成29年度に完結する予定で,報告書が刊行されます。調査には,地元の方や研究者が参加し,11月23日の祭祀の日を中心に,祭祀を行っている人から杜のいわれや現状の祭祀の様子を聞き取り,ほかにニソの杜周辺の植生調査,関係する年中行事や葬送墓制等の調査を行っています。