2018年1月4日
神仏分離以前の複合的な予祝行事
「尾鷲九木浦の正月行事」
三重県尾鷲市教育委員会生涯学習課 世古基次

元旦に行われるニラクラ祭
紀伊半島南部に位置する三重県尾鷲市九鬼町は,リアス地形の湾奥に天然の良港をもつ中世の九木浦を継承した集落で,明治期以降はブリ大敷の定置網漁によって栄えました。この地で行われる正月行事が,平成9年12月4日,神仏分離以前の複合的な予祝行事を示す重要なものとして「記録作成等の措置を構ずべき無形の民俗文化財」に選択されました。
諸行事は,九鬼氏ゆかりの九木神社や真巖寺,そして集落中心部にある,高さ約1mの石垣で囲まれた聖地ニラクラなどで行われますが,真巖寺は江戸期において九木神社の別当寺であり,またニラクラは,かつて漁師が負傷防止のために駆除した海岸付近のニラ(ウニ・ガンガゼのこと)を集めた蔵であったと伝わっています。
祷屋は,集落の共有財産である漁場や山林を管理する九木浦共同組合の構成員が務め,遊谷配・里配の二組における村組・配役・祷人・賀儀取が行事に当たります。このうち賀儀取は,九木神社に籠もって精進潔斎し,本祭日には真巖寺で弓射儀式を行います。更に伊勢神楽を伝える神楽部が,祭りににぎわいを添えます。

大晦日の晩のヒョウケンギョウ

海の安全と豊漁を祈願する船上神楽
行事はかつて,旧暦の大晦日から1月8日まで行われていましたが,現在は新暦の大晦日から1月3日までであり,主なものは次のとおりです。
大晦日の晩,ニラクラでは,ウニ供養が由来とされるヒョウケンギョウの大火焚きが行われ,九木神社では夜籠もりが行われます。元日は,夜明け前から神楽部が船に乗り,日の出とともに沖の定置網漁場や浦の湾内で神楽を奉納します。その後ニラクラでは,聖地の土や前夜の大火の消し炭に海水を混ぜた泥を,祷人たちがふんどし姿でかけ合うニラクラ祭が行われます。また真巖寺では,夕刻,オコナイ行事が行われます。本祭日の3日午後,九木神社で精進潔斎を行った賀儀取が,神楽部や祷人らと町を練り歩いて真巖寺に上り,境内では弓射儀式や大漁祈願の祝い事などが行われます(賀儀取諸礼,通称「ブリ祭」)。その後,本堂で盃事が行われ,一連の正月行事は終了します。

真巌寺での賀儀取諸礼(ブリ祭)

賀儀取諸礼での矢取りの様子
時代とともに行事が変化する中,平成29年1月,文化庁において「変容の危機にある無形の民俗文化財の記録作成の推進事業」による映像撮影が行われ,貴重な記録を後世に残すことができました。なお,ヒョウケンギョウやニラクラ祭,ブリ祭は,誰もが見学できますので,興味ある方は是非,現地を訪れてください。