2018年3月15日
山間に春を告げる伝統行事
「阿仁地方の万灯火」
北秋田市教育委員会生涯学習課文化係 細田 昌史
万灯火は,お盆の迎え火や送り火のように,春彼岸の期間中に火を焚き,先祖の霊を供養する伝統行事です。その起源ははっきりしませんが,江戸時代の紀行家菅江真澄が万灯火のことを書き残しており,江戸時代後期には行われていたと思われます。
万灯火は昭和30年代までは,秋田県北部の米代川流域で広く行われていましたが,現在では北秋田市と北秋田郡上小阿仁村にまたがる小阿仁川沿いの集落に色濃く残っています。平成17年,「記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財」に選択され,平成24年には「変容の危機にある無形文化財の記録作成の推進事業」により調査され報告書がまとめられています。平成28年には,北秋田市は10集落,上小阿仁村は15か所で行われました。

赤々と燃える万灯火(北秋田市三木田)
万灯火は春彼岸の中日,春分の日に行われます。昔は稲わらを高く積んだものに火を付けていましたが,今は「ダンポ」あるいは「ダマ」と呼ばれる端切れの布を丸く球状にしたものに灯油を染み込ませたものを芯としたものや,灯油を入れた空き缶に縄の芯を付けたものを,ホオノキ等の棒,針金や単管パイプなど金属製の枠につり下げたものが主流となっています。

川の土手に並べられたダンポ
(北秋田市三木田)

ダンポを吊るした火文字の枠を
立ち上げる「中日」の「中」の字
(北秋田市摩当)
これらを集落から見渡せるまだ雪が残る山の尾根や川辺,田んぼ,墓所に点々と並べ設置したり,集落名や「中日(彼岸)」などの火文字の枠を立ち上げたりするのが一般的です。万灯火の様相は時代とともに変わり,ハンドルを回すと火の玉がくるくる回る車マトビや,ワイヤーにつり下げられたダンポの火文字がせり上がるものなど集落ごとに仕掛けや特色があります。
日が暮れ,あたりが夕闇に包まれると,太鼓やほら貝の音を合図にいっせいに火が灯され,まだ雪の残る山間が万灯火の炎で幻想的に照らし出されます。ダンポが燃え尽きるまで時間があり,また上小阿仁村では点火の時間が調整されているので,小阿仁川沿いの集落を移動して見比べることも可能です。
雪舞う日でも穏やかな星降る夜でもチラチラと灯る万灯火の炎は,来るべき春の予感と長い間伝統的を守り続けてきた村々の人々の温かさを感じさせてくれます。
万灯火が終わると北国北秋田の地にも春が駆け足でやってきます。

松明での点火
(北秋田市三木田)

車マトビなどのようす
(北秋田市鎌沢)
※万灯火の表記については諸説ありますが,当地域では「万灯火」の字を当てています。