2018年5月9日
「尾張・三河の花のとう」~豊田市の花のとうを中心に~
豊田市郷土資料館 学芸員 名和奈美
「花のとう」は,尾張・三河地方を中心に,主に旧暦4月8日及び新暦5月5日などに行われてきた作占い行事です。神社や寺院の境内に農作業の様子を模型や人形などでジオラマ風に表した「おためし」と呼ばれる飾り物を作り,参詣者は各々その年の作物の出来不出来や天候,景気などを占いました。この行事は,平成8年に国の「記録を講ずべき無形の民俗文化財」に選択され,現在は主に名古屋市や岡崎市,津島市など,10数か所で同様の行事が行われています。
豊田市内では,少なくとも6か所で行われていたことが確認されていますが,現在は松生嶋弁財天(九久平町),射穂神社(保見町),守綱神社(寺部町)の3地区で行われています。
豊田市の「花のとう」の行事は,それぞれの地域の主催者が,毎年5月8日に行われる熱田神宮の豊年祭の「おためし」を見学するところから始まります。

熱田神宮の豊年祭

熱心に記録をとります
天候を表すといわれる神様の衣の色や,田所(田んぼの様子)・畑所(畑の様子)の飾り物の配置などの詳細を記録し,地域に持ち帰り,自分たちの「おためし」を制作します。豊年祭の飾りは,毎年,位置や並べてあるものが変わるため,必ず熱田神宮に見に行かなければなりません。また,「おためし」を制作する際には,熱田神宮の「おためし」を基にするのですが,それぞれの地区で制作する人々が手作りした飾り物などを配置します。そのため,3地区の「おためし」は人形の作りや顔立ち,雰囲気など,一つとして同じものはなく,見どころの一つとなっています。

松生嶋弁財天の花のとう

射穂神社の花のとう

守綱神社の花のとう
当日は,地元の保育園や小学校の子供たち,地元の人々が見学に来ます。射穂神社では,くじを引くことができたり,苗を販売する所もあり,賑わっていました。ある地元の人は,「昔は,おためしの後に,畑に作物の苗を植えていた。おためしを見て,今年はどの苗を植えるかを考えた」とおっしゃっていました。

見学する地元の人々(守綱神社)

苗の販売(射穂神社)
農業と密接に関係している行事であるため,担い手の高齢化が進み,近年は見学者が少なくなってきているそうです。豊田市では,昨年度,(一財)地域創造の助成を受けて豊田市の花のとうの行事を映像記録化しました。昔から生活の基盤であった農業の大切さとあわせて,このユニークな行事が広く知られ,後世へ継承されていくことを願っています。