2018年9月19日
久礼八幡宮の御神穀祭
中土佐町教育委員会 主任 吉村知久
中土佐町は,高知県中西部,土佐湾に面した町で,その東部にある久礼地区は,海側の浦分が鰹の一本釣りの漁師町として発展し,山側の郷分が稲作などの農業に従事していることから,居住区ごとにそれぞれの生業があります。
久礼八幡宮は,応神天皇など六神を祭神とする神社で,久礼の中心部に位置し,太平洋を正面にして鎮座しています。創建年代は詳しくは分かりませんが,中世久礼の領主であった佐竹氏が勧請したと言われているほか,正面の浜に祭神が流れ着いたとも伝えられています。
秋季例大祭で行われる行事では,御籠祭に始まり,奉堂立祭,御開扉祭,御神穀祭,田植式,前夜祭,例大祭,御神幸,奉堂休祭をもって終わる祭事があり,地域の安全や豊穣を祈願しています。また,秋季例大祭の中で1番の盛り上がりを見せるのが旧暦8月13日の夕方から14日の明朝にかけて行われる御神穀祭であり,孟宗竹3本を芯にして割竹や松材とともに束ねたもの(径80cm前後,長さ5~6m,重さ約1トン)である大松明を先頭に久礼の町を練り歩きます。この大松明は,御神穀を導く明かりであり,邪気を祓う火でもあるとされ,長さ3mほどの棒2本を直角に渡して40人ほどが交代で担ぎます。

一行には神職のほか,大太鼓,小松明,大榊を持った露払い,大きな御幣を持った御幣持ちなども従い,神社に近づくと前年のトウヤ(山中などに奉堂地という聖地を有する家)組も小松明を手に加わります。卯の刻になると神穀入殿として御神穀担いが駆け足で社殿に入り御神穀を備えます。次いで1人の男性が大松明とともに境外にでて水を汲んできます。佾(舞を奉納する3人の巫女)はこの水を受け取り,御神穀の飯と麹に加えて一夜酒を醸して神前に供えます。また,大松明は境内に投げ出され,熾き拾いと称して氏子や参詣者が燃え枝を奪い合います。燃え枝は魔除けになると言われています。

久礼八幡宮の御神穀祭は,「古風を保ちながら,地域的特色も顕著であり,我が国の民間における神祭りの在り方を考える上で注目される」として,平成30年3月8日に記録作成などの措置を講ずべき無形の民俗文化財に選択されました。中土佐町は,平成31年度からこの記録作成のための調査を国庫補助事業により進めていく予定です。
