2019年1月31日
中里のカンデッコあげ行事
秋田県立博物館 主査(兼)学芸主事 丸谷仁美
何やら聞き慣れない名前の行事です。この行事を行っている地元では「カンデャッコ」と言いますが,呼びづらいので現在は「カンデッコ」と統一しています。

写真提供:仙北市
この行事は仙北市西木町の山村地帯である中里地区で,現在でも旧暦の1月15日に行われている小正月行事です。小正月の夜に集落の男性が,御神木である桂の木に奉納物を投げ上げて五穀豊穣や子孫繁栄を願います。この時投げる奉納物を「カンデッコ」と言い,行事を行う日まで男性達が,家の人たちに内緒で夜遅くにこっそりと作るそうです。
カンデッコは,長さ150㎝ほどのしめ縄の両端に,ホオの木で作った50㎝ほどの鍬の模型と,オニグルミの木で作った20㎝ほどの男性器をかたどったものを結んだもので,地元で鍬の模型のことを「カンデッコ」と呼ぶことからこの行事の名前がついたと言われています。

写真提供:仙北市
旧暦1月15日の夜,男性たちが集落にある塞の神堂にカンデッコを供えて参拝し,その後桂の御神木にカンデッコを投げ上げます。カンデッコを投げるのにはコツが必要で,初めての人はなかなかうまく掛かりません。そのため,一回で木の枝にかかるとその年は豊作になるといわれています。現在は皆で一斉にカンデッコを投げますが,以前は夜遅くに銘々で投げに行ったそうです。その後,近くの田んぼで稲わらを燃やす「虫焼き」が行われ,害虫や雑草を焼き払うことで豊作を願います。

写真提供:仙北市
翌日,落ちているカンデッコを拾って家にある実のなる木にかけておくと,実がよくつくと言われました。また,いつ頃まで行っていたかは分かりませんが,昔は女性も恋占いや三十三才の厄を払うために桂やミズキの木でカギの形を作り,塞の神堂にあった御神木のサイカチの枝に掛けたそうです。サイカチの御神木は残念ながらなくなってしまい,今では女性がカギの形の奉納物をかけたことを覚えている人も少なくなりました。
この行事については文献等がないため,いつ頃からどのように行われていたかは定かではありませんが,五穀豊穣や子孫繁栄を願う小正月に特徴的な行事の要素が見られるとして,昭和61年(1986),「記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財」に選択されました。この行事が行われる日は満月ですので,晴れれば月明かりの中,たわわに実った果実のように,御神木にカンデッコが下がっている風景を見ることができます。小正月以外でも,仙北市角館から北秋田市阿仁方面へ向かう国道105号線沿いに御神木がありますので,お近くへ来られた際には是非その姿を御覧ください。