2019年3月22日
美保神社の蒼柴垣神事
島根県教育庁文化財課 藤原宏夫
島根半島の東端に位置する美保関(松江市美保関町)は,北前船の寄港地として栄えてきました。廻船問屋などの歴史的建造物も多くのこる港町には,ミホツヒメノミコトとコトシロヌシノカミの二柱を祭神とする美保神社が鎮座しています。祭神のコトシロヌシノカミにまつわる祭りとして毎年4月7日に行われるのが蒼柴垣神事です。
この祭りの内容は,国譲り神話と関連付けて解釈されています。高天原から派遣されたタケミカヅチノカミらに国を譲るよう迫られた国津神のオオクニヌシノカミは,その可否を息子のコトシロヌシノカミに相談します。コトシロヌシノカミは国譲りに同意するものの,天の逆手を拍って,乗っていた船を蒼柴垣の神域に変化させてそこに籠もられたという物語です。蒼柴垣神事は国譲りの神話を儀礼化することにより,神霊を年ごとに新たにすると考えられています。
神事会所に並ぶ両當屋たち
この祭りは,氏子による独自の祭祀組織によって成り立っています。 中心となるのは,頭人,當屋(二名),客人當,休番(二名)と呼ばれる六名の人たちで,総称して役前といいます。役前は日々の潔斎を欠かさず行い,神事のために備えます。 これに神事を取り仕切る世話役の上官と,神事中の奉仕をする準官が加わります。
御船
祭りの日は4月7日ですが,行事は3月31日に両當屋が神社に参籠することから始まり,当日まで様々な儀式や準備が行われ,また祭りの後にも同様に各種の儀式があり,4月12日まで続きます。
祭り当日の朝,神社境内の神事会所に設けられた大棚の前では當屋とその従者が座して目を閉じ,午後からの行事を待ちます。その間,町の人々は礼拝のためにここを訪れ賽銭を納めます。
午後,社殿において宮司や巫女らによる儀式が終わると,一行は神事会所に向かい,一同が集い御解除と呼ばれる儀式が行われます。そして,一行は行列をなして二艘の御船に分乗し,美保湾の中央へこぎ出すと,船内では神がかった當屋が神霊をいただく「御船ノ儀」や巫女による田楽が行われ,そののち着岸します。下船した一行は再び行列をなして神社に戻り,両當屋による奉幣,新當屋の選出,御船番の舞,當為知の相撲などの儀式が行われて祭りは終了となります。
神社に向かう行列
美保神社では蒼柴垣神事のほかにも国譲り神話にちなんだ祭りとして,オオクニヌシノカミがコトシロヌシノカミに国譲りの可否を問うために送った使者が諸手船に乗っていたことに由来する諸手船神事があり,毎年12月3日に行われます。