2014年9月25日
出張授業「千年の釘にいどむ」
―博物館資料を通して伝える職人の技と心―
公益財団法人 竹中大工道具館 研究員 大村 都
日本はものづくりの国です。なかでも大工の手仕事を支える大工道具は「道具の王様」といわれ,そこには日本人ならではの美意識や心づかいが秘められています。そんな大工道具を専門とした日本唯一の博物館が竹中大工道具館です。今回は当館が実施している国語科の出張授業と教員研修について御紹介します。

竹中大工道具館 外観
神戸市の小学5年生が使う国語の教科書には,四国の鍛冶職人・白鷹幸伯氏が薬師寺西塔再建にあたり古代の和釘を再現する過程と,千年もつ釘づくりに挑む職人の心意気を描いた「千年の釘にいどむ」という文章が載せられています。当館では,それにもとづいて2011年度から出張授業を行っています。授業では白鷹氏がつくった釘と現代の釘とを比較するアクティビティを行ったり,和釘の製造工程を映像で紹介したりしています。文字ではわかりにくい釘や鉄の性質も,和釘を手にとってみることで実感として伝わっていきます。また,千年前の職人の仕事に向き合い,千年後の職人に語りかける現代の職人の心意気は,ものづくりと縁遠くなった現代の子供たちの心にも十分に響くようです。

和釘と現代の釘を比較する様子。
重さ,形,手ざわりなどの違いを実感することができます。
先生によると,出張授業中の子供たちはいつも以上に学習に集中し,積極性がみられたそうです。また,事後学習の際には「教科書のみの学習ではイメージや興味がわかず,学習に意欲的でなかった児童も,本物に触れることで興味を持って学習に取り組むことができた」「『これ知っとう,前見たやつや!』と関心を持って取り組んでいた」そうです。先生自身も,「文章を読むだけでは,白鷹さんの思いの強さや努力を感じられなかったと思うので,効果の大きさを感じた」と,実物資料を観察し理解することが,子どもたちの学びを深め,興味を広げることにいかに効果的であるかを実感されたようです。

子どもたちから寄せられた感想文
この教材のトピックは「鍛冶」や「釘」ということで,先生たちにもなじみがなく,これまでは2~3時間の音読のみで終わってしまうことが多かったそうです。そこで先生方にもこの教材への理解を深めてもらえるよう教員研修も実施しました。ほとんどの先生方は実物の和釘を見たこともなく,どのようにつくられているのかも知らなかったため,アクティビティでは,子供たち同様に熱心に観察されていました。参加者からは「本物の釘を見せていただいたり,映像を見せていただいたりしたおかげで,教材に興味を持つことができた」「プログラム内容を事前に把握でき,出張授業を含めた単元計画を立てやすくなった」という声が寄せられました。研修に参加された先生のいる学校での出張授業では,しっかり事前学習が行われ,子供たちの教材理解も進んでいるように感じました。

先生も釘の特徴を事前に理解しているので,
積極的に子供たちに声がけしていました。
出張授業の効果を最大限にするには,やはり先生による事前事後学習でのフォローが必要不可欠です。教員研修を通して教材とプログラムへの理解を深めてもらい,出張授業を含めた単元計画を立ててもらうことが効果的であると実感しています。今後もこの研修を継続し,学校との連携を深めていきたいと考えています。
竹中大工道具館
〒651-0056 神戸市中央区熊内町7-5-1
※2014年10月4日,新神戸駅前に移転・新館オープン
- 問合せ
- 078-242-0216
- 交通
- 山陽新幹線「新神戸駅」中央改札口より徒歩約3分
市営地下鉄「新神戸駅」北出口2より徒歩約3分
シティ・ループ「12 新神戸駅前(2F)」下車徒歩約3分
神戸市バス2系統・18系統「熊内6丁目」下車徒歩約2分 - 開館時間
- 9時30分~16時30分(入館は16時まで)
- 休館日
- 月曜日(祝日の場合は翌日),年末年始(12/29~1/3)
- 観覧料
- 一般 500円,大高生 300円,中学生以下 無料
65歳以上の方(年齢証明できるもの要提示) 200円
障害者手帳をお持ちの方 無料
団体割引(20名以上) - ホームページ
- http://dougukan.jp