2015年3月26日
遊びながら学ぶ鑑賞支援ツール「おもしろびじゅつ帖」
サントリー美術館 教育普及担当 関 香澄
サントリー美術館では,美術館に来てくれた小中学生に鑑賞支援ツール「おもしろびじゅつ帖」を配布しています。これは,当館の教育普及活動の柱のひとつとして,2007年のリニューアルオープン以降,展覧会ごとに制作しているものです。展覧会の見どころの中から特にポイントをしぼって紹介し,鑑賞のヒントを提示していますが,いわゆるガイドブックやワークシートの類にとどまらず,毎回様々な内容,かたちで制作しているところが特徴です。コンテンツも,問いかけやクイズ形式,塗り絵やスケッチなどの書き込み形式,組み立てたり,かざったりできる形式など多岐にわたり,その都度伝えたいこと(テイクホームメッセージ)が伝わりやすい方法を検討して仕様を決めています。そして,鑑賞時だけではなく,鑑賞前の予習や鑑賞後の振り返りとしても繰り返し利用でき,家族や友達とのコミュニケーションツールにもなることで,学びを深める一連の支援をめざしています。
さまざまな「おもしろびじゅつ帖」
「高野山の名宝」展おもしろびじゅつ帖(2014年10月)。国宝「八大童子像」のカード。トレーディングカード風に,気づいたことを裏に書き込める。
「生誕三百年 同い年の天才絵師 若冲と蕪村」展おもしろびじゅつ帖(2015年3月)。若冲と蕪村の人生すごろく風年表。
制作にあたっては,展覧会担当学芸員,教育普及担当者,広報担当者に加え,外部のデザイナーとアドバイザーを迎えて毎回チームを組んでいます。まず,展覧会の構成や見どころなどの情報を共有し,数多くの見どころの中から何をとりあげ,何を伝えるか,そのためにはどんな方法がよいか,遊びの要素はどう入れていくか,などを話し合っていきます。この段階が毎回苦心するところですが,一番大切な時間です。そして,学芸員からの学術的な指摘,教育普及担当者からの学びにつながる要素の抽出,デザイナーからの斬新なアイデア…様々な立場からの視点を尊重しながら最終的な着地点を探っていきます。
次回おもしろびじゅつ帖制作会議の様子。さまざまな立場からアイデアを出し合います。
「天才陶工 仁阿弥道八」展(2014年12月)では,展覧会に出品した館蔵品「色絵桜楓文鉢」をとりあげ,フリップブック型「おもしろびじゅつ帖」を作成しました。仁阿弥道八作のこの鉢は,桜と楓の文様が半身ずつ描かれており,ところどころに透かしが入っています。見る角度によって桜でいっぱいになったり,楓の奥に桜が見えたり,様々な景色が現れてくる作品です。
「仁阿弥道八」展おもしろびじゅつ帖。
パラパラめくると作品が回転しているように見えます。
会議の中で学芸員が発言した「桜文と楓文が,外側と内側でまるでメビウスの輪のように配置されている」という言葉を発端に,作品をいろいろな視点から見ること,見え方が変化していくことのおもしろさを伝えるツールを制作することに決まりました。いろいろな角度から見える景色を紙媒体で伝えるためにその方法を検討し,パラパラ漫画の方法でアニメーション化することに。他の学芸員にも手伝ってもらい,作品を少しずつ動かしながら写真撮影をしました。子供たちへの直接的なメッセージや,美術館でのマナーなどのテキストは主に教育普及担当者が執筆しています。紙の厚さや大きさも,何度も試作品を作って検討しました。
展示室では実物をじっくり見てほしいのですが,壁面ケースに展示されている場合は全方向から見ることはできません。今回は「おもしろびじゅつ帖」で,実際に見えない部分を補うこともできました。また,自分の手の中で大切な作品をじっくりながめる,陶磁器本来の楽しみ方を擬似体験するような感覚も得ることができるツールになったのではないかと思います。子供たちには,展示室に入る前に「おもしろびじゅつ帖」を渡していますが,受け取ると同時に何度もパラパラめくっている姿を見ることができました。家に帰っても,パラパラめくる何げない動作を楽しみながら,美術館で見た作品を思い出してもらえることを願っています。
日本美術は,専門用語も多く難しいと思われがちです。様々な立場のスタッフが協力して開発している「おもしろびじゅつ帖」だからこそ,私たち自身も意外な「おもしろさ」を発見しつつ,子供たちに「ねえねえ,みてみて!」と,その発見を伝え続けたいと思っています。
サントリー美術館
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- 10:00~18:00(入館は閉館30分前まで)
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- 毎週火曜日,展示替期間,年末年始
- 観覧料
- 一般1,300円, 高校・大学生1,000円, 中学生以下無料
※団体は20名様以上100円割引
※展覧会によって変更する場合があります。 - ホームページ
- http://suntory.jp/SMA/