2015年8月7日
カイコから学ぶ子供たちと博物館
シルク博物館 学芸課長 石鍋由美子
シルク博物館では小学校などへ蚕種(カイコの卵)を有償で配布する蚕種配布事業を5月に実施しています。今年度は神奈川県を中心とした保育園・幼稚園から高校までの564校園が当館からの蚕種でカイコを飼育しました。初めて受け取りにくる先生は「こんなに小さな袋に入っているんですか?」と,大きな箱を抱えながら驚かれることもあります。

蚕種。直径約1㎜,植物の種のように見える。
配布時に飼い方の説明会を実施しますが,飼育途中での問合せも多くあります。カイコは人間が生糸を生産するために家畜化した昆虫です。そのため桑の葉を与えたり,糞の掃除をしたりするなどの世話が必要です。はじめは怖がっていた子供も世話をするうちに情が移り,カイコが繭作りを始めると「カイコがいなくなっちゃった」と泣き出す子供がいるそうです。約1か月間,大事に育てたカイコが見えなくなったからだと思いますが,初めて聞いたときには新鮮な驚きがありました。

繭作りが始まり,やがてカイコは繭の中へ。
小学校3年生の学習で来館されると,希望により映画「かいこ」の上映やカイコについての説明をします。当館では機織りや糸繰り体験とともに,いろいろなシルク素材に触れることができます。ここで一番人気なのが真綿で,生糸用に出荷できない繭をアルカリの湯で煮て引き延ばしたものです。「やわらか~い」「ふわふわ~」という感想の中「あったか~い」「これで布団を作りたい」と真綿の特性を肌で感じ取った言葉を聞くこともあります。また,スカーフを頰に充てて「気持ちいいね」「こんなの欲しい」と満足げに話す子供に,「カイコってすごいね」と話しかけると自分たちのカイコの話をしてくれます。

体験コーナーに集まる生徒たち。

下段左から3番目が一番人気の「真綿」。
また,カイコを飼育したフォローアップとして「たのしいかいこの発表会」を開催しています。観察日記,カイコ新聞を始め,繭を使った人形や織物などの作品を募集して12月に展示します。例年,幼稚園児の描いた絵や小学生の観察日記などから,子供たちの目線で見たカイコの様子がよくわかります。子供たちはカイコが多量の糞をすることに注目していることから,新たなテーマになることに気付かされました。カイコの糞は豊富な葉緑素を含み,食品や薬,染料などに使われることを子供たちに話してみたいと思っています。

園児や生徒による工作や絵の作品。
小学校や幼稚園等でカイコを飼育する目的は,昆虫を育てることから生き物の生態や命の大切さを教えることです。しかし,博物館では“産業の中でのカイコ”についても子供たちに知ってもらいたいと思っています。この場合の“カイコ”は生糸生産のために繭の中にいる蛹の状態で一生が終わります。これらカイコのもつ2つの面にも留意しながら,今後も日本のシルク産業を紹介する使命を果たしてしていきたいと思います。
シルク博物館
(住所)〒231-0023
神奈川県横浜市中区山下町1番地
- 問合せ
- 045-641-0841
- 交通
- みなとみらい線 日本大通り駅下車徒歩3分
- 開館時間
- 火曜日~日曜日 9:30~17:00(入場は閉館30分前まで)
- 休館日
- 毎月曜日(ただし,月曜祝日の場合は開館し,翌日が休館)
- 観覧料
- 一般\500-,大学生\200-,高校生\200-,65歳以上\300-,
中・小学生\100-
※20名以上団体割引あり - ホームページ
- http://www.silkmuseum.or.jp/