2015年12月7日
博物館活動で地域を元気に
-出前講座1000回達成-
松山市考古館 学芸員 梅木謙一
当館では,小学校での社会科や公民館での生涯学習等の支援をするため,平成13年度より国の提唱する「総合的な学習の時間」の実施を踏まえ,本格的に出前講座に取り組み,平成27年10月には,その実施件数が1,000回(受講者約60,000人)に達しました。出前講座は,小学校がその半分以上で,中学校,高校,大学,児童クラブ,公民館,地域ボランティア等で行い,ピーク時の22年度には130回,この5年間では年度平均90回になっています。ここでは出前講座の内容,継続の背景,継続することで見えてきた成果を紹介します。
●講座の内容
小学校では,社会科と総合的な学習の時間での利用が多く,社会科の授業では,まず校区の遺跡や松山城等での発掘調査をスライドで紹介し,次に出土品などを見て・触れ,つづいて復元した古代服を着るなどの体験型の授業を行います。更に授業が2校時分ある場合には火おこし体験を行います。火おこしは,火の役割の話をした後に,舞きり式で火をおこします。また,総合的な学習の時間では毎年,松山市立味酒小学校6年生(180人)が「古代人と私」をテーマに1学期間,竪穴住居・染物・土器作りなどを調べ体験する授業(10回程度)を支援します。児童からは「自分たちの校区に遺跡があることに驚いた」,「古代人はすごい」,「歴史が好きになった」,保護者からは「意欲に火をつけてくれてありがとう」,教員からは「貴重な経験ができます」などの声があります。中学校では主に文化祭で石勾玉作り(材料費300円)や土器修復の模擬体験(立体土器パズル)のワークショップなどを行い,公民館では主に高齢者学級での利用があります。
ハニワに変身しています
舞ぎり式火おこしに挑戦
この火で赤米を炊きます
みんなが入れる竪穴住居を作りましたよ
植物を煮て染めたよ
土器焼き用の窯を作っています
ワラ・木・土で作ります
土器が焼き上がりました
今年は成功率9割以上です
●継続の背景
当館では,出前講座を含めた教育普及活動において小学生から高齢者に共通する感想の「実物に触れられて良かった」・「身近に遺跡があるとは知らなかった」を大切にし,「本物」・「身近」・「分かりやすい」を心がけています。「本物」では,多くの実物の土器や石器等を持ち込み,直接古代の遺物にさわって「身近」に古代を感じてもらう。また,古代の服を着たり,土器の復元パズルを体験したりすることで「分かりやすい」疑似体験ができて楽しく学習することです。学校の教員や公民館の職員等には,好評価を得て口コミで他校,他館に広がり継続と新規利用につながっているのです。
また,「歴史は好きではないけど,今日は良かった」,「来てくれてありがとう」などの利用者からの声は,職員の喜びと自信になり,出前講座のより良い運営,さらには博物館事業全体への意欲向上につながっています。
●見えてきた成果
出前講座が15年で1000回実施したことによって,職員も多くのことを知り・学び,利用者には博物館や歴史が身近になり,市民の元気や地域の活性化を育むことにつながったと思います。
①知る 来館の困難な人は多くいます。高齢者の出前講座では「年なので考古館へ行きたいが足が悪くて行けません。今日は良かった」の80歳代女性の声,博物館での教員研修会では遠方の小学校教員から「考古館見学をしたいのですが,時間と費用面で行くことができないのですが,学校が遠いので無理ですか」の声,博物館での講演会では島嶼部の市民から「フェリー代等にお金がかかり,子供を連れてきたいが難しい。島までは来てくれんのやろか」の声,がありました。体力・時間・経費などから博物館を見学したくても来られない人,出前講座を必要としている人たちは多くいたのです。今では,遠方の学校にも行き,島でもおおむね年1回は学校や公民館で出前講座を行い,島の人たちから喜ばれています。そして,考古館にも,愛媛県埋蔵文化財センターにも見学に来て,その感想を寄せてくれています。出前講座を聴いたことで,関心が生まれ,博物館でルーツを学習するという気持ちが生まれてきたのではないでしょうか。
②博物館・歴史が身近になる 松山市考古館の存在は,職員が思う以上に市民に知られていませんでした。出前講座では,当館を見学したことのある人は1割に満たない場合もあり,その理由は「知っているが遠い」,「興味がない」などです。ところが,出前講座が縁やきっかけになり,後日に団体や個人で博物館を訪ねてこられるケースは少なくないのです。出前講座は学校や地元公民館等,利用者の日常生活範囲の場所で行われます。利用者が身構えずリラックスした中で講座に参加できることで,職員との対話が博物館の見学時以上に質問が多くあり,博物館や歴史が身近に感じられるようになったものと思われます。
③地域の活性化に一役 昨年度,市内小野地区にある葉佐池古墳史跡公園が開園し,地元有志でつくるボランティア団体「はさいけくらぶ」(会員約50人)が施設管理と見学者への案内をしています。葉佐池古墳の公園化が決まったころ,地元の人々が地域の歴史遺産等を大切にて継承するとともに,「多くの人に知ってもらいたい,公園に来てもらいたい」という気持ちから団体を立ち上げました。会員の多くは考古学とほぼ無縁であり,ボランティアも未経験でした。そこで,当館では「くらぶ」の要望も有り,様々な出前講座を実施し,活動を支援しました。地元の遺跡や松山の歴史を学ぶ座学,市民も参加する地元での遺跡巡り,ボランティア養成講座などを行いました。当館事業で地元開催の「歴史さんぽ」(遺跡・文化財巡り)では,会員さんにガイド練習を兼ねた案内役なども担っていただきました。今では公園の案内者として楽しいガイドで活躍しています。「くらぶ」では,葉佐池古墳公園が近隣する田んぼでのレンゲソウまつりなどの自主事業も行い,地域の活性化に努めています。こうした小野地区への出前講座は,本事業のコンセプトに合致した「はさいけくらぶ」の活動ぶりが成功例として第1号となりました。
今後も,出前講座は地域おこしの一役を担うべく,第2,第3の「くらぶ」が誕生できるよう,利用者のホームグランドに出向き,利用者の生きる力や団体の地域活動力を支援し,地域の活性化のために貢献したいと考えています。
「はさいけくらぶ」会員の初めてのガイド
松山市考古館
(住所)〒791-8032
愛媛県松山市南斎院町乙67‐6
- 問合せ
- 089-923-8777
- 交通
- 伊予鉄バス10番線津田団地行き 丸山バス停下車 徒歩約10分
- 開館時間
- 火曜日~日曜日 9:00~17:00(入場は閉館30分前まで)
- 休館日
- 毎週月曜日(祝日及び振替休日を除く)・祝日及び振替休日の翌日・年末年始
- 観覧料
- 一般100円(20人以上の団体80円), 65歳以上50円,高校生以下無料
※特別展は別途料金が必要 - ホームページ
- http://www.cul-spo.or.jp/koukokan/