2016年1月15日
親しみやすい博物館を目指して
千葉県立関宿城博物館 主任上席研究員 鈴木敬子
「親しみやすい博物館」。口でいうのは簡単ですが,実際には何をすればいいんでしょう?悩むところです。どの博物館でも様々な取組がなされていると思いますが,当館で行っている取組を2つ,紹介したいと思います。
●子供でも理解しやすい展示
当館は,利根川から江戸川が分岐する場所に建つ城形の博物館です。「河川とそれにかかわる産業」をテーマにした歴史系の分野を専門とし,利根川や江戸川の治水とそれに関わる河川改修工事,河川を使った流通の歴史,そして江戸時代の関宿藩について紹介しています。
と,これだけ聞いても,とても小学生や幼児が来館しても,理解できないのではないか,と思うでしょう。そのとおりです。当館の展示内容は,小学生以下の子供たちには難しいものです。しかし,当館周辺の自然環境の良さや,城形の博物館という日本人の心をくすぐる建物のため,土日ともなると,幼児や小学生を連れた家族連れが多く来館します。そこで,いかに子供でも歴史系の博物館で楽しみながら学べるか,が大きな課題となります。

「関宿城遠景」
利根川から当館を望んだところ。
冬場はこのように富士山とのコラボが見られます。
これを解消するために,今年度の企画展では子供向けのキャプションとクイズの設置を行いました。企画展のタイトルは「海路から広がったやきもの―近世以降の関東―」で,江戸時代に東海以西の焼き物の産地から江戸をとおって関東内陸部に広がっていく様子と,関東に興った焼き物の産地を紹介したもので,やはり小学生以下の子供たちには難しいものでした。そこで,展示室では,展示内容に絡めたやさしいクイズを出題したり,子供向けのキャプションを設置したりしました。

「子供向けのクイズの問題と回答」
質問をめくって回答を見るタイプです。
当館のイメージキャラクター,カッピー君に
質問を出してもらい,回答してもらいました。
さらに,博物館の入り口(エントランスホール)では,焼き物の下絵にぬり絵をして,焼き物屋の棚に似せたボードにぬり絵を貼り付ける「やきもの屋」のワークショップや,蹴ロクロによる焼き物製作の実演の見学,焼き物の模様つけの体験を実施しました。「やきもの屋」は,幼児でも参加できる体験として人気を集め,やきもの屋の棚はすぐにいっぱいになり,ボードの貼り替えを何度も行いました。

「ワークショップ「やきもの屋」体験風景」
やきもの屋のボードには,
たくさんの焼き物が売られています。
蹴ロクロの実演においては,今ではあまり使用されないロクロを足で蹴ってまわす焼き物作りに,子供だけでなく大人も興味津々で,質問が多く飛び交いました。模様つけの体験では,明治期に多く作られた磁器の絵付け方法である「印判染付」の技法を簡略化し,焼き物のマグネットを作りました。10分くらいで作れるため,多くの人たちが参加しました。

「蹴ロクロの実演風景」
足で蹴ってまわすロクロによる焼き物作りは珍しいので,
質問を多く飛び交いました。
エントランスホールでの様々な取組は,企画展の導入展示に当たり,焼き物に親しみを持ってもらおうとするものです。展示室内での子供向けのキャプションやクイズは,展示内容を理解するのに分かりやすくしています。どちらも子供向けの大切なアイテムですが,実は子供だけでなく,大人たちもこれによって,興味を持って,見ていただいています。「普通は文字なんて読まないけど,子供用だと読めるから助かる」という大人の声もありました。
博物館にとって,展示こそが教育普及事業の最たるものであるため,展示内容をすんなりと分かっていただくことが,今回の子供向けキャプションやクイズ,ワークショップのねらいでした。
●来館者との博物館づくり
当館では,来館者からアンケートによっていただいた要望を「ご要望にお応えします」というコーナーをつくり,回答を貼り出すとともに,改善できるものはすぐに対応しています。この取組は,要望を具現化するだけでなく,回答が他の来館者の目に留まることで,来館者との距離を縮め,より当館に親しみをもってもらうという大きなねらいがあります。

「「ご要望にお答えします」コーナー」
エントランスホールに設置されています。

「ご要望等への対応状況(回答)用紙」
対応できることは,すぐ実現し,回答しますが,
対応の難しいものでもその旨を,回答します。
当館は職員数が二桁に満たない小さな博物館ですが,こういった地道な試みを続けることによって,来館者に親しまれる博物館を目指したいと常に考えています。今回紹介した取組以外でも,ちょっとしたアイデアで,親しみやすい博物館づくりを継続していきたいと思います。
千葉県立関宿城博物館
(住所)〒270-0201
千葉県野田市関宿三軒家143-4
- 問合せ
- 04-7196-1400
- 交通
- 東武アーバンパークライン(野田線):川間駅から朝日バス(境町行き)32分,関宿城博物館下車
東武伊勢崎線:東武動物公園駅から朝日バス(境車庫行き)27分,新町バス停下車,徒歩15分
まめバス(平日のみ運行)川間駅からまめバス(北ルートで関宿中央ターミナルにて関宿城ルートに乗換え)約70分,関宿城博物館下車
自動車 国道16号線野田市中里陸橋から25分,圏央道境古河I.C.から13分,新4号バイパス幸手市菱沼交差点から10分 - 開館時間
- 火曜日~日曜日 9:00~16:30(入場は16:00まで)
- 休館日
- 月曜日(月曜日が祝日又は振替休日に当たる場合は,翌日休館。)
- 観覧料
- 一般:200円(団体160円),高大生:100円(団体80円),
中学生以下・65歳以上:無料 - ホームページ
- http://www2.chiba-muse.or.jp/?page_id=61