2016年3月9日
対話がうまれる絵本づくり
坂の上の雲ミュージアム 学芸員 德永 佳世
坂の上の雲ミュージアムは平成19年4月,司馬遼太郎さんの小説『坂の上の雲』の主人公である秋山好古・真之兄弟や正岡子規が生まれ育った愛媛県松山市に開館しました。展示テーマは,『坂の上の雲』に描かれた「近代国家へと成長していく明治時代の日本のすがた」と人びとの人生です。博物館は様々な世代の人びとをおむかえしますが,当館の場合,小説を読んでいないと展示内容がわからなさそうだし,なんだか難しそう?!という印象をもたれている大人の方が少なからずいらっしゃいます。歴史に初めてふれる,あるいは歴史を学び始めた子供たちにとっては,なおさらのことです。そこで,当館では5年前から企画展に併せてオリジナルの絵本をつくり,展示室内にもうけたキッズコーナーに置くなど,「学び」のきっかけづくりをこころみています。

限られた展示空間の中でも,場所をとらない絵本。
大人の方からの評判がいい。
地域の人たちとともにつくる
松山のまちづくりの中核施設として誕生した当館では,地域の人びとと一緒に育てていくという視点を大切にしています。平成19年の開館以来,リレー朗読会など毎月の定例イベントは,地域の人びとが主体的な担い手となって開催されています。
絵本についても,学芸員と展示制作会社のデザイナー,そしてクリエイターを目指している地元の専門学校生でキッズチームを組んでつくっています。6代目となる今年度のメンバーは,当館がどんな博物館であるかはもちろん,発達心理学の視点からみた「学び」についても少し学んだ上で制作にあたりました。

デザイン系の専門学校にかよう学生たち。絵本のほかに,たんけんマップやワークシートも一緒につくった。

完成したばかりの絵本をみる学生たち。
双方向的な対話から主体的な「学び」へ
絵本の目的は,展示と展示をみる人とをつなぐツールとなることです。展示本編を理解する上での基礎情報を提供したり,展示をみたりしたあとのふり返りとして使えるようにしています。展示との連動性を考える余り,これまでの絵本は情報が盛りだくさんの子供用展示図録のようになりがちでした。新作絵本『子規さんの旅だち』は,絵本の本来の特性をいかせるように情報をできるだけ省き,展示のエッセンスのみをつたえる内容に編集しました。作中には,物語と読者とをつなぐ第三者“天空の住人たち”を配置し,彼らをナビゲーター役に双方向的な対話がうまれるように構成しています。

「様々な読者が親しみをもちやすいようにかわいすぎず,大人っぽすぎず」,
「豊かな表情」を意識して学生たちが描いたイラスト。
新作絵本の反応は,2月23日に公開したばかりのため未知数ですが,公開日前日に行った3名のモニターの様子から,次のようなことがみえてきました。絵本を一人で読んだ小学生4,5年生は,“天空の住人たち”のつぶやきや呼びかけについて「面白い」,「話に参加できる」,「文(物語)をよりわかりやすくしてくれた」と記しています。その一方で,言葉の意味がわからなかったり,内容が少し難しいと感じたりする部分もあったようです。母親と読んだ中学1年生は,絵本を読みながら対話がすすみ,内容も無理なく理解できている様子です。
“天空の住人たち”の存在によって対話は確かにうみだされており,歴史を初めて学ぶ子供たちには,読み聞かせも取り入れることで,更なる内容理解を深められるのではと考えています。最後に,展示をみてみたくなったとのうれしい記述も発見し,展示と展示をみる人をつなぐツールとしての「絵本」の可能性を改めて感じています。

絵本の本文を短くするために省いた
基礎情報はコラム形式にまとめてカードに。

モニターの様子。
「まだ一生の仕事はわからないな…」
今回,これまでの課題をふまえて新たな工夫を加えた絵本を公開しましたが,改良すべきところはまだまだあります。これからも利用者の声を丹念にひろいながら,よりよい絵本づくり,活用の仕方を模索し続けたいです。
坂の上の雲ミュージアム
(住所)〒790-0001
愛媛県松山市一番町三丁目20番地
- 問合せ
- 089-915-2600
- 交通
-
- ・JR松山駅から(所要時間10分) 市内電車(道後温泉行き)→大街道下車→徒歩2分
- ・道後温泉から(所要時間10分) 市内電車全線→大街道下車→徒歩2分
- ・松山空港&松山観光港から(所要時間30分) リムジンバス(道後温泉行き)→一番町下車→徒歩2分
- ・松山自動車道松山インターから(所要時間20分)
- 開館時間
- 火曜日~日曜日 09:00~18:30(入場は閉館30分前まで)
- 休館日
- 毎週月曜日(休日の場合は開館)
- 観覧料
- 一般¥400(¥320), 高校生¥200(¥100),
65歳以上¥200(¥160)
※中学生以下は無料
※()内は20人以上の団体割引料金 - ホームページ
- http://www.sakanouenokumomuseum.jp/