2016年5月9日
つなぐ つながる 時間がつながる 人がつながる
~国宝 上杉本洛中洛外図屏風大解剖~
米沢市上杉博物館 学芸主査 花田美穂
米沢市上杉博物館では,国宝上杉本洛中洛外図屏風の魅力を体感してもらうため,複製画を利用した出前授業やミュージアムスクール(博物館が教室)を展開しています。対象は小学生から高校生で,教科も美術,社会,生活科と幅広い内容です。それというのも,上杉本がある程度確定した歴史的背景を持ち,また美術的にも優れた作品であるとともに,描かれた時代の人々の暮らしぶりを伝える資料でもあるからです。複製画は京都の伝統工芸の技と最先端のデジタル技術とを融合させたもので,本物と見まがうほどのものです。原本の上杉本は国宝のため年間60日しか展示できない上,観るのはもちろんガラス越し。目前に見る精巧な複製屏風の迫力に,子供たちは圧倒されます。

「綴 文化財未来継承プロジェクト」
第一期作品として制作された高精細複製にぎりぎりまで近づく
小学6年生の社会科では,戦国時代の学習に併せて出前をしています。上杉本が,織田信長から上杉謙信への贈物で外交戦略の一つだったこと,屏風の注文主が13代将軍足利義輝だった可能性が高いことなど,屏風を見ながら話します。
そしていよいよ屏風をじっくり見る時間。およそ450年前の京都の人々の暮らしや建物,風俗などに触れていきます。「描かれている人は何人いるかな?」「150人」「1000人」などいろんな声が飛び交います。「洗濯してる!」「稲刈りだ!」「何だろう?」「顔がみんな違う…」など,子供たちのつぶやきを拾い上げて疑問に答えたり,関連した会話をしたりすることで,発見と感動の共有や学びのゆらぎが生まれます。それが次の興味やさらなる発見につながっていきます。ハンカチやマスクで口を覆うなど文化財を間近で見るときのマナーも忘れずに伝えます。上杉本を向かい合わせにすると京都の春夏秋冬を一望することができます。兜をかぶり,上杉謙信になりきって京都の町を独り占めにした子供たちからは歓声があがり,遠い存在と思っていた戦国武将たちが教科書から飛び出す瞬間です。

レプリカの兜で戦国武将気分
中学校美術科では,画中の金雲の役割や作者 狩野永徳のねらいや技量を知ることで,上杉本を日本画として味わってもらいます。「紅葉してる」「金閣寺に雪が!」「桜?梅?」など描かれているものから目には見えない季節を発見したり,西洋画的な遠近法を使用していないこと,多視点で描かれているなど,日本画の伝統的な描き方の妙技を発見したりします。ここでも生徒たちのゆらぎはとても重要となります。最後に部屋を暗くして屏風にライトを当てると,金箔の輝きに「おー!」と歓声が。更に『金雲』によって成立している多視点の描写を再認識します。
また,日本画の画材に実際に触ることで,その技法を知り,次のカリキュラム模写へつなげていきます。金箔が手に吸い付く感触に驚きの声が上がり,それが鼻息で吹き飛んで更に歓声。450年前と余り変わっていない日本画の画材にも更に興味がわいてきます。


金箔の輝きにふれる
単元の締めくくりを原本展示期間にあわせれば,作品を見るだけでなく,守る意識もわいてきます。過去を生きた人々の暮らしは決して自分たちの暮らしとかけ離れたものではなく,時の流れの中でつながっています。その1つの証拠が上杉本。それぞれの時代の人々が「今」を生きた結果が過去となり,未来もつくってきたことを,たくさんの学びのゆらぎを通して子供たちと発見しつづけていきたいと考えています。

博物館で本物にふれる
米沢市上杉博物館
〒992-0052
山形県米沢市丸の内1-2-1
- 問合せ
- 0238-26-8001
- 交通
- 徒歩:JR米沢駅から2km 市内循環バス:「上杉神社前」下車
車:山形蔵王IC・福島飯坂ICよりR13で約50分 - 開館時間
- 9:00~17:00(入場は閉館30分前まで)
- 休館日
- 4月 休館日なし
5~11月 毎月第4水曜日(休日の場合はその直後の平日)
12~3月 毎週月曜日(休日の場合はその直後の平日)※1月1~3日は開館しています。 - 観覧料
- 常設展 一般¥410(320), 高・大学生¥200(150), 小・中生¥100(60) ※( )は20名以上の団体料金 ※特別展・企画展は別途
- ホームページ
- http://www.denkoku-no-mori.yonezawa.yamagata.jp/top.htm