2017年4月12日
ついこの間の“出張回想法”
富山県 氷見市立博物館 副主幹 小谷 超
「私,嫁にいった次の日,アンチャンとオッチャンとおって,どっちが自分の旦那さんかわからんだ。」
平成29年3月14日,氷見市の隣,高岡市太田公民館での高齢者サロンへ出張した際に出た80歳代の女性の一言。40人いた会場の皆さんが大爆笑!それぞれに思い当たるからでしょうね。
これを理解するにはちょっと説明が必要です。
氷見周辺地域の農村部では,昭和30年代前半頃まで,ヨメドリ(結婚式)にはムコハン(婿)は同席しませんでした。ヨメハン(嫁)は夜,嫁ぎ先である婿の家に入り,家の座敷では朝まで披露宴。ムコハンは隣の家にいるか,家にいても人前には出てきません。

氷見市立博物館が「地域回想法」を初めて6年が経過しました。
最近の主な取組は“出張回想法”です。担当学芸員(小谷)がスクリーン,プロジェクター,パソコンのほか,テーマに合わせて数点の民具を持参し,地域で行われる高齢者のサロンやふれあいランチに参加します。
先の太田公民館での,1時間のプログラムの内容を御紹介します。
「氷見の懐かしの風景」「子どもの頃の遊び」「ヨメドリの思い出」「チョウハイ(嫁が年に何度も実家に戻り,過ごす習俗)の思い出」「戦前・戦中の学校時代の思い出」などに関する写真を次々に投影して,学芸員が会場の皆さんに思い出話を尋ねながら進めます。
その中で,とっても受けが良かったスライドを御紹介します。

この絵は,昭和初期の屋根の葺き替えの様子を思い出して描かれています。
多くの人手を要する作業は,「エー」(「結」のこと)で人足を出し合います。煤が上がった茅を外し,新しい茅を葺くために,顔を真っ黒にして作業している様子が描かれ,高齢者にとって見覚えのある光景です。

次に,カキモチの写真です。かつて,二月正月(二番正月)に餅つきが行われ,薄く切って藁で広間に干されました。お腹が空いた子供たちが,2枚ずつ重なっているから1枚抜いても親にばれないだろうと思い,抜いたところ緩んで全部落ちて叱られた,などという思い出話で盛り上がります。

三つ目は,ツブラ(藁籠)に入る赤ちゃんの写真です。農家出身の高齢者であれば,ほとんどの人がこの中に入った経験があります。「温かかった」という話の一方で,「窮屈で,嫌だった」「肩に紐をかけられて,出られないようにされた」などと,ちょっとかわいそうな話も聞かれます。
約45分間懐かしい写真を見て,大いに懐かしんで笑っていただいた後,「回想法」について2枚のスライドを使い説明します。


血流量の話は,私自身本当にそう感じます。回想法実施後,本当に体がポカポカします。皆さんのお顔も,紅潮してくるのが分かります。
最後に,文部省唱歌「ふるさと」を皆さんで合唱して終了します。
終わった後,皆さんから「久しぶりにこんな懐かしいことを思い出した」「涙が出そうなくらい本当に楽しかった」と言っていただくほどうれしいことはありません。主催側のスタッフの方からも感謝と驚きの言葉がもらえます。
この「出張回想法」は,民俗の学芸員の,学術研究以外の地域貢献として是非お勧めしたいプログラムです。博物館の宣伝にもなりますよ。
氷見市立博物館
(住所)〒935-0016 富山県氷見市本町4番9号
- 問合せ
- 0766-74-8231
- 交通
- JR氷見駅より徒歩10分程度
- 開館時間
- 火曜日~日曜日 AM9:00~PM5:00(入場は閉館30分前まで)
- 休館日
- 毎週月曜日 (原則祝・休日の場合は開館し,翌平日休館します。)
- 観覧料
- 一般(高校生以上)\100 小・中学生\50
※30人以上は団体料金(一般\60 小・中学生\30)
※氷見市内の小・中学生は無料で入館できます。 - ホームページ
- http://www2.city.himi.toyama.jp/museum/