2018年5月23日
生きている芸術“盆栽”だからできること
-地域とともに,次の100年に向けて-
さいたま市大宮盆栽美術館 学芸員 石田 留美子
「盆栽はどこから見るでしょうか?」「下からー!」
夏休みになると,盆栽を鑑賞する子供たちの元気な声があちこちから聞こえてきます。
「大宮で盆栽?」
実は,当館のあるこの地域は「大宮盆栽村」と呼ばれ,盆栽の聖地として国際的に知られています。
その大宮盆栽村にあるのが,6つの盆栽園とさいたま市大宮盆栽美術館(通称「盆美」)です。

盆栽庭園では約60点の盆栽を常設展示しています
夏休み子どもぼんさい美術館-目指せ,ぼんさい博士!
当館で教育普及事業を行うに当たり,はじめに直面したのは「盆栽は敷居が高い」「子供には難しい(=子供を持つ大人にも難しい)」「行くきっかけがない」という来館者の声でした。充実したプログラムを組み立てるのはもちろん。ですが,当館における教育普及事業では,まずは多くの方に「盆美って,行っていいんだ」と思ってもらえるところから,盆栽に親しむきっかけづくりを行うところからのスタートでした。
「地域の子供と保護者に向けて,盆栽に親しめるきっかけをつくろう!」
そうして始まったのが,企画展「夏休み子どもぼんさい美術館」と「夏休みワークショップ」です。

学習ノートを使い,問題に答えながら盆栽について学べます
企画展では,展示に合わせて発行した「学習ノート」を使い,問題に答えながら盆栽の見方や大宮盆栽村とその歴史などについて学ぶことができます。展示室を出るときには,「ぼんさいって何?」「大宮盆栽村ってこういう村」「ぼんさいの見方は…」等の知識を得られ,「ぼんさい博士」になった子供たちが嬉しそうに大人に問題をだす姿も見られました。
盆栽は“1回やって終わり”ではなく,継続して育てていくもの
夏休みワークショップをはじめ,子供向けワークショップでは,季節の植物を素材にし開花を楽しむ盆栽づくりを企画するなど,子供たちが家に帰ってからも盆栽を育てる楽しみを感じられることを大事にしています。
今では,地域の子供たちが,夏休みになると友達の家に行くような感覚で,気軽に盆美を訪れるようになりました。小学生で盆美に初めて来た子供たちが,盆栽と一緒に成長し,中学生になり,高校生になっても,盆栽好きでいてくれることをとても誇らしく感じています。

マイ盆栽を仕立てる! と真剣な表情の子供たち
小学校の盆栽授業
現在,さいたま市内の小学校では,さいたま市独自の「土曜チャレンジスクール」や総合的な学習の時間を使った,「盆栽授業」が行われています。校外学習として美術館に来館するだけでなく,学校での盆栽づくりをはじめ,大宮盆栽村の盆栽園を歩いてまわる等,学校によりプログラムは様々です。
当館が行う盆栽授業では,「盆栽を飾ろう」というテーマで授業も行い,小学生が作った盆栽を最終的には美術館で展示します。「ぼんびに自分の盆栽が飾られる!」「100年後,ぼんびに収集してもらう!」など,「美術館に自分の盆栽が飾られる」という目標があることで,子供たちの制作に対する意識が変わり,目を輝かせて盆栽づくりに取り組んでいました。担任の先生たちも「子供たちが盆栽に興味を持っていて新鮮だった」そうです。

小学校見学では盆栽をさわる体験学習のほか
「自分が想像した風景」を自由に話すようにしています
さいたま市の魅力“盆栽”を世界に発信!
ある学校の盆栽授業では,子供たちが自ら「さいたま市の魅力“盆栽”を世界に発信!」というテーマを決めました。地域の文化資源は,その土地に暮らす人たちのアイデンティティーのひとつでもあります。縁あって,生まれ,育つ土地の良さを子供の頃から知り,発信することで,自分の育つ土地に誇りを持ち,自信を持って生きることができるのではないでしょうか。
盆栽と関わり続けることは,地域と関わることでもあります。盆栽と一緒に生き,育ち,地域やその文化芸術は自分たちがつくっていくんだ,と一人でも多くの子供たちに気づいてもらい,地域に根づいてもらいたいと願っています。また,盆栽のように,どんな天候にも負けず,力強く育っていってほしい,美術館の活動から,その応援をしていきたいと思っています。
地域の魅力を大事にする。今,さいたま市ではそうした「盆栽授業」の輪が広がってきています。生きている芸術“盆栽”だからできること。今の時代を生きる子供たちと,これからも実践していきます!
さいたま市大宮盆栽美術館
(住所)〒331-0804 埼玉県さいたま市北区土呂町2-24-3
- 問合せ
- 048-780-2091
- 交通
- JR宇都宮線「土呂駅」下車 東口より徒歩5分
- 開館時間
- 9:00~16:30(3月~10月)/9:00~16:00(11月~2月)
※入館は閉館30分前まで - 休館日
- 木曜日(祝日の場合は開館)
※年末年始,臨時休館日あり - 観覧料
- 一般 300円(200円),高大生・65歳以上 150円(100円),
小中学生 100円(50円)
※障害者手帳をお持ちの方と,付き添いの方1名は半額
※( )内は20名以上の団体料金 - ホームページ
- http://www.bonsai-art-museum.jp