2018年7月27日
作品鑑賞カードで導くコミュニケーション
― みる・かんがえる・はなす・きく ―
秋田市立千秋美術館 学芸員 米山茉未
秋田市立千秋美術館では,作品をじっくり鑑賞し,絵画の見方や楽しみ方のヒントを受け取ってもらうことを目的とし,2012年より小中学生に「作品鑑賞カード」を配布しています。カードに使用するのは,常設展示室のある洋画家・岡田謙三の作品が中心で,A5用紙の表面に作品に関する質問を2問程度,裏面に解説を記載し,自ら作品を見て,考えることのできる内容を心がけて作成してきました。
岡田謙三記念館の展示風景
発行から6年目の2017年11月,内容が定型化しつつあったため,展示替えに合わせて,カードの内容を見直しました。自己完結型だった従来版から,改良版は学校利用や家族での来館が中心という小中学生の特性を利用し,同伴者と作品を見て感じたことを共有できるようにしたいと考えました。これは,学びにとって重要な他者の視点を取り入れる「ゆらぎ」を生み,「みる・かんがえる・はなす・きく」というループを促すことで,より深い鑑賞へと導くことをねらったものです。
改良版では,岡田謙三の特徴が分かりやすい作品を選び,表面の質問はシンプルものにし,裏面に「お話ししてみよう」というトピックを設け,同伴者と自分が考えたことを話し合えるようにしています。質問に対する明確な答えを出すことは目的としていませんが,画家の色彩表現やモチーフなど,質問に関連する必要最小限の情報は裏面に記載しました。
改良版「作品鑑賞カード」
改良に当たって,2段階で外部の意見を取り入れました。まず,カードの趣旨や改良のポイントを説明した上で,秋田公立美術大学の学生にカードの案を考えてもらい,参考にしました。当館では近年,折に触れて教育普及ツールを作成する際に同大の学生と連携しており,若い感覚と美大生という制作者側の視点から,新たな風を吹き込んでもらえる良い機会となっています。
鑑賞カードの案を発表する学生たち
次に,小学5年生の女の子とお母さんに,改良版のカードのモニターを依頼し,感想や改善が必要な点を聞きました。例えば,作品《銀》の「あなたならこの作品にどんなタイトルをつけますか?」という質問で,子供は,欠けたり出っ張ったりしているみたいで,長く生きてきた岩のようだから,「年老いた岩」と命名。お母さんは,長い秋田の冬が思い浮かび,暗い冬,冬の海のイメージから「くもり空」と答えました。鑑賞中こちらから声かけは行いませんでしたが,作品を見てカードに記入した後,自然と答え合わせが始まり,もう一度作品を見て二人でいろいろと考える様子が印象的でした。親子で答えが全く違い,一つの作品でも見方,考え方がいろいろあることが楽しかったそうです。
作品の前で鑑賞カードを手に会話する親子
改良版の配布開始後,校外学習で来館した小学生も作品を見て,カードに記入した後,自分の考えたことを友達と話す姿が見られました。展示替えを行った後も,改良版の内容を継承した形で,新たなカードの作成を行っています。今後も,一枚のカードをきっかけに作品の自由な解釈が生まれ,コミュニケーションにより新たな発見・学びが生まれるような展示づくりをしていきたいと思います。
校外学習で来館した小学生
秋田市立千秋美術館
(住所)〒010-0001 秋田県秋田市中通二丁目3-8(アトリオン内)
- 問合せ
- 018-836-7860
- 交通
- JR秋田駅下車 西口より徒歩5分,秋田空港よりリムジンバスで約40分,秋田自動車道秋田中央I.Cより車で約15分
- 開館時間
- 10:00~18:00(入場は閉館30分前まで)
- 休館日
- 年末年始,アトリオン全館点検日,展示替・施設整備期間
(日程はホームページ等で御確認ください) - 観覧料
- コレクション展:一般\300(240),大学生\200(160)
※( )内は20名以上の団体料金
企画展:企画展により異なりますが,岡田謙三記念館も併せて観覧できます。
高校生以下無料 - ホームページ
- https://www.city.akita.lg.jp/kanko/kanrenshisetsu/1003643/index.html