2020年3月25日
連携事業で育む「考える力」
様似町教育委員会 学芸員 髙橋 美鈴
当町は,「かんらん岩」という岩石を母体としたアポイ岳をはじめ,特異な地質地形が多いことから町全体がユネスコ世界ジオパークに認定されています。様似郷土館では令和元年度から町立様似図書館,アポイ岳ジオパークビジターセンターと連携し,地質や自然,歴史などジオパークを活用した小・中学生向けの事業を始めました。
「ジオ塾ジュニア」と名付けられたこの事業は,町内全体をフィールドとして「対話による鑑賞」と,図書を利用した「調べ学習」を取り入れた事業プログラムです。
地域連携模式図
事業は①内容説明,②フィールドワーク,③調べ学習,④まとめ製作の順で進めます。
①では,毎回設けられたテーマを伝え,最後のまとめの制作物について説明をします。
②では現地に移動し,スタッフが参加者の子供たちと対話をしながら,深い観察を促しながら,子供たちの「どうして?」「なんで?」という疑問を一緒に考えます。
③では,図書館に移動し,気になったことやまとめ制作のために必要な情報を調べます。
④ではまとめ制作として,現地での体験や調べ学習で得た情報を成果物として形にしてもらいます。そして,最後に1分程度で,それらについて発表してもらいます。
これらを通じて子供達の「総合的な考える力」を育むことが,本事業の目的の一つです。
先日は「様似の冬を知ろう!」というテーマで,町内の林道を歩きながらそこにあるものを観察し,最後にその情報を書き込んだ地図を作ってもらうという事業を実施しました。
この事業では,林道にあるもの全てを対象とした対話による鑑賞だったため,対象物が広く,対話内容を事前に想定できないという問題点がありました。当日スタッフである歴史担当の郷土館学芸員,地質担当のビジターセンター学芸員,動植物に詳しいジオパーク担当職員,調べ学習に繋げるためレファレンス担当の図書館司書のそれぞれが,どんな対話になるのかドキドキしながら子供たちとフィールドに向かいました。
「もしかしたら何にも興味を示さず,帰ろうって言われるかな?」という不安を抱きながらフィールドに着くと,「川が凍っている!石を投げて割ってもいい?厚さがわかるかも!」,「キノコがあった!なんのキノコ?」などなど,子供たちはいろんな声を私たちに投げかけてくれました。
私たちは答えを教えるのではなく,一緒に考え,より深い学びに繋がるように対話をします。それぞれの分野の専門である私たちにとってこの対話がとても難しいところです。すぐ答えを言ってしまいそうになることもありますが,ぐっと我慢しながら対話が弾むように心がけます。
この日はとても寒い日だったにも関わらず,最終的には予定の倍近い時間をかけて観察をしてくれて,私たちの心配は杞憂に終わりました。
寒空のなか50分ほど歩いて観察をおこないました(赤い線が歩いたところ)
観察をして,
フィールドノートに書き込みます
情報を書き込んだフィールドノート
図書館に帰ってきてからは,自分たちがフィールドノートに記録した内容について図書を利用した調べ学習を行うほか,持ち帰ってきたキノコや植物の同定を行いました。この時も,私たちスタッフは答えではなく,ヒントを出すことに徹します。
最後のまとめ制作では,事前の打合せで「難しいかな?」「大丈夫かな?」と心配していた私たちをよそに,時間いっぱいギリギリまで頑張ってくれて,出来上がった地図は私たちの想定を超える完成度でした。
事業を始めた当初は,調べ物学習や発表に対して「難しい!」「ムリ!」と言っていた子供たちが,回を重ねるごとに「時間が足りなかった!」と言ってくれるようになりました。事業終了後,スタッフみんなで制作された地図を眺め,いつの間にか「この地図を多くの人々に見てもらうにはどうしたらいいか」と話合いを始めてしまうほど,子供たちの可能性を実感した事業となりました。
この事業を始めたきっかけとして,「子供たちが自分の町を知り,それを堂々と大人に話せるようになってほしい」という思いがありました。
そして,そのためには子ども達の「総合的な考える力」を育むことが必要と感じ,対話による鑑賞と調べ学習を取り入れた形になりました。
そこに,「ユネスコ世界ジオパーク」という特異な環境と町内の専門職員が連携することによって多分野でのアプローチが可能となり,事業をやりやすくしています。また,そのおかげで子供たちも広い分野に興味を持ち,より主体的な気づきに結び付いていると感じています。
小さい町の小さい郷土館ができることは限られます。ただ,町をフィールドとしたらたくさんの「ネタ」が散らばっています。そして,専門職員が連携したら,たくさんの「知識」があります。事業に来てくれる子供たちには「成長」と「可能性」があります。この事業には,施設間連携だけではなく,町とそこで育つ子供たちと私たち職員の連携事業でもあります。この事業に来てくれた子たちが自分の育ってきた町について堂々と話す姿を,この事業を通して見ていきたいと考えています。
子供たちが作った地図(観察したものや調べたものを記入)
様似郷土館
(住所)〒058-0024 北海道様似郡様似町会所町1番地
- 問合せ
- 0146-36-3335
- 交通
- JR様似駅から徒歩20分
- 開館時間
- 火曜日~日曜日 10:00~16:30
- 休館日
- 毎週月曜日,祝日の翌日
- 観覧料
- 無料
- ホームページ
- https://www.apoi-geopark.jp/other/samani_kyoudokan.html