2021年8月6日
博学連携企画展を通して見えてきたもの
高校生とともに学び、育つ博物館
歴史に憩う橿原市博物館 学芸係長 松井一晃
「茶色くて、同じものばっかり。」
考古系博物館では、土器など遺跡からの出土資料から歴史を紹介しています。けれども、土器や石器の形などの違いは、専門的でわかりにくいものも少なくありません。そのため、来館者が何をみればよいのか分からず、資料と関わりにくいのが長い間の課題でした。
この課題を解決するために、歴史に憩う橿原市博物館は平成28年度から、奈良県立橿原高等学校と連携し、博学連携企画展を開催しています。
この企画展は、高校生(=普通の人)自身の疑問を自ら解き明かす過程を追体験することで、歴史を身近なものとして楽しんでもらうことをねらいとし、考古学研究部員が、企画から展示までの全てを行います。
「弥生ARTを科学するー人物画のテクニックー」展示風景
展示では、生徒の思考の過程が展示内容となるため、担当職員は、結論に関わる発言は一切しません。そのかわり生徒には、「発見は思い込みの中にある」「不正解なんかない(自由に考えよう)」という2つのメッセージと、①モノから語る、②意見を否定しない、③具体的に話す、④全員が納得した意見を採用する、の4つの決まり事を伝えます。また、議論の土台づくりと活性化を目的に、
①体験による自身の考えの見直し
②毎回のふり返りによる、到達点と課題の共有
③生徒の発言への共感と、議論の内容や対応を具体的にほめる
④「その考えを○○するには、何を、どうしたらよいか。」という問いかけ
の、4つの促しを行っています。
体も使って、絵の構図を説明中。
令和2年度は、「むかしの人は絵が上手そう」という部員のイメージを、弥生時代の人物画から探りました。
「簡単そうやん!」と言う生徒に、「ねえ、うまい絵ってどんな絵なの?」と担当職員が一言。1年にわたる議論のスタートです。「似てる。」「細かい。」「でもさ、ピカソって上手いんやんな?」「!?」「……」そこで担当者は絵を描いたり、鑑賞することを提案します。分析の視点を自ら見つけ出すために。
この絵、どんな絵?
どんな順に、どういう風に考えたでしょう?
はじめのうちは、「いい意見が出ない。」「うーん。」と、2時間も無言の時もあります。担当職員は「その意見、他の人にとってはいい意見かも。聞かせてよ。」「どんなところがモヤモヤしてる?」など声かけしながら待ち続けます。
そのうち、生徒は「みんな、この部分、どう見える?」「立場変えて話してみようや。」など、自発的に、資料への理解や議論を深める工夫をしていきます。
資料観察
曲がっているのは膝?足首?
展示作業では、生徒が展示をイメージしやすいように助言します。生徒は、他館の協力のもとで資料借用にも同行する他、解説動画の企画や記者発表も行います。
展示後、生徒は「部員の意見がいろいろで、おもしろかった。」「自分たちでテーマを決めたから頑張らないと、と思った。」「常に具体的にほめてくれたので、自信を持てた。」「『楽しかった』というアンケートを見て、良かったと思った。」と話し、来館者からは、「そんな目でみたことがなかった。」「身近なテーマなのがよい。」「これからもこの取り組みを続けて欲しい。」などの声がありました。
弥生ARTとコラボしよう
弥生絵画の風景を来館者も想像しました。
博学連携企画展は、高校生の力を借りて、歴史を身近で楽しいものにしたいという当初のねらいを超え、主体的な学びの実践の場として、欠かせない展覧会となっています。また、生徒にとっては、様々な価値観を共有し学びを深める場、社会とつながる場であり、利用者にとっては、新しい気づきの場となっています。
私達は今年も高校生と共に学びながら、来館者が自由に学び、楽しむ「茶色くない」博物館を目指していきます。
歴史に憩う橿原市博物館
(住所)〒634-0826 奈良県橿原市川西町858-1
- 問合せ
- 0744-27-9681
- 交通
- 近鉄「橿原神宮前」駅下車、西出口より徒歩30分。
橿原神宮前駅西口乗り場より、奈良交通バス「近鉄御所駅」行、「川西」下車、徒歩2分。 - 開館時間
- 火曜日~日曜日9:00~17:00(入館は16:30まで)
- 休館日
- 毎週月曜日、月曜日が祝日の場合は翌平日
12月27日~1月4日 - ホームページ
- https://www.city.kashihara.nara.jp/article?id=5c521ce965909e2ebea905de
- 動画
- 歴史に憩う橿原市博物館HPもしくは、「イコハク動画」で検索