2021年8月31日
未来につなげる、地域とつながるミュージアムを目指して
南相馬市博物館 学芸員 樋口晴菜
はじめに
南相馬市は、10年前の東日本大震災や原発事故による放射線の影響により人口が大きく減少しました。また、市内には大学がないため、青年層の多くは大都市に出て行ってしまいます。そのような状況下の中で、ミュージアムの関係者による「こども☆ひかりプロジェクト」との出会いがあり、2016年からワークショップを通して、子どもたちに笑顔を届けるための活動と、未来の南相馬を担う確かな人材の育成を目指しています。
1.「南相馬ミュージアムユース」の育成
ワークショップフェアを実施するなかで、ミュージアムの楽しさを伝える次世代の人材育成に取り組みました。昨年度は新型コロナウイルスの影響により、活動を縮小せざるをえませんでしたが、2019年までは地元の高校生や福島県や宮城県の大学生がミュージアムユースとして各フェアの運営に参加しました。ユースたちは学芸員とともにワークショップの経験を重ね、ミュージアムの役割を理解し、地域文化を伝えるための強力な助っ人に成長しました。
また、ワークショップに参加した子どもたちが、自分の身近な高校生や大学生がユースとして活躍するのを見ることで、自分も将来ユースをやってみたいと思えるような契機を提供できればと思います。さらに、ユース内で縦の繋がりを作ることができます。参加した高校生たちからは、「学芸員になりたいと思っていたから良い経験ができた。」「子どもたちや大学生と交流することでき、ためになる話を聞くことができた。」「大学生になって地元を離れても、引き続き関わっていきたい。」と話してくれました。
こども☆ひかりミニフェスティバル in みなみそうま(2015年10月12日)
ユースと協力し、子ども向けマップを制作しました。
当館の展示室や周りの公園、市内を「たんけん」できる内容になっています。
2.アウトリーチ「キッズキャラバン」
昨年度は市内の幼稚園の協力のもと、当館の資料を持っていったり、周辺の田んぼや神社などのフィールドを活かして地元にある植物や生きものを観察するなど、ミュージアムらしいワークショップを届けられるよう模索しました。事前にどんな生きものがいるか調査し、シートにまとめて同行する園職員の方に配布し、生きものの名前を知ってもらいました。
カナチョロ(カナヘビ)みっけ!(2020年9月18日)
講座の1つに浮くタネというプログラムがあります。こちらは水遊びの延長から、水にタネを浮かべて興味を持ってもらいます。そして、浮くタネがなぜそのようなワザを身につけたのか考えてもらうのが目的です。他にも、外国のタネや身近なタネに触れ、多様な生きものの形を知ってもらいます。
浮くタネを見てみよう。(2020年7月9日)
身近にあるクルミを観察しました。浮くかな?(2020年7月9日)
まず、重いヤシの実やモダマ、硬いクルミを実際に手にとって観察します。「○○みたい」「軽い」など次々に感想が出てきます。実のなる木が海や川の近くにがあることを説明したあとで、「浮くかな?沈むかな?」と2択クイズを行います。自分なりに考えて子どもたちは手を挙げます。答え合わせで、タネを「3、2、1!」の掛け声で水に浮かべると一斉に「浮いたー!」「やったー!」など歓声をあげ、子どもたちは大喜びです。今の段階では、難しいことはわからないかもしれませんが、大きくなった時に「あの時、あんなことをやったな」と、点が線に繋がってくれたらと思っています。
ワークショップを終えて保護者の方からは、「お散歩で色々な虫を見つけて、学芸員さんに聞いたことを話してくれた。」「子どもが(木の実を水に浮かべるワークショップを体験して)これは浮くかな?と数か月たっても言っています。」など反響がありました。「大きくなったら博物館のひとになりたい」という子もいたため、活動に大きな手ごたえを感じています。
おわりに
これからもユースを育成することで、次世代へ博物館の取り組みが浸透していくよう取り組み、サイクルを確立させていきたいです。そして、地域の人たちの交流の場として、地域社会の活性化に貢献することを目指していきます。
また、博物館を知らなかった子どもたちが幼稚園などでコンテンツに接し、帰宅後、家族に楽しかった体験を話すことで、当館に興味を持ち、訪れてくれると嬉しいです。学んだ知識を日々の遊びの中で活かしたり、将来的には、地域の良さや多様性、歴史を知り、幅広い視野を持ってくれることを願っています。