2022年2月25日
どうやって学校にキリンを連れて行くか
~上野動物園オンライン授業の試み
恩賜上野動物園 動物解説員 小泉 祐里
2020年2月末からの2年間、新型コロナウイルス感染症の影響により上野動物園は3度の臨時休園、その合間には人数を限定した開園、そして学校団体の受入れは中止という状況が続きました。
動物園から子どもたちの姿が消え、私たちは動物について伝える対象を失った一方、学校の先生からは「子どもたちの体験学習の機会がなくなった」という切実な声を聞きました。そこで2020年秋から、東京都内の小中学校を対象にオンライン授業を行ってみることにしました。今では当たり前になったWEB会議システムについても当時はよく分からず、学校の態勢も不明なままの見切り発進でした。
内容の作成にあたり、最大の課題は「実物を見ることに意味のある動物園なのに、映像で何が伝えられるのか」「テレビやWEB動画との違いは出せるのか」ということでした。検討を重ねたうえ、まずはキリンを題材にして、①キリンの体つきや暮らしについて映像や標本資料などを用いてお話しし、学校にいてもキリンという生き物を感じてもらえるようにする、②その年に生まれた赤ちゃんの誕生の瞬間とその後の成長ぶりを映像で伝えて臨場感を出す、③クイズや質問タイムを取り入れて双方向性を実現する、などの工夫で45分間の低学年向けの授業内容を組み立てました。

導入のクイズ~本物のキリンは黄色くない!
数回実施してみたところ、「まるで動物園に行っているみたいだった」「キリンについていろいろな発見があった」「質問に答えてもらえて嬉しかった」という子どもたちの声や、「行事が少ない中で楽しい体験ができた」「授業に奥行きができた」などの先生の声をいただくことができました。一方で、「低学年には45分間映像を見て集中を続けるのは厳しい」「もう少し実感できるものがあれば」という課題もあがりました。
そこでさまざまな工夫を重ねていきました。①双方向性を増すためにクイズ形式をベースに構成し直し、②子どもたちの参加意識を高めるためにコミュニケーション方法を工夫し、さらに体感的に理解できるよう③キリンの動作を真似るコーナーや④実物の大きさを確認するコーナーを挟んでいきました。その結果、ほとんどの子どもたちが最後まで集中して楽しく参加できるようになりました。

すりつぶして食べるキリンの口の動きを手で模倣
授業中、教室にいる先生にも積極的に指導に参加してもらいます。おとなのキリンの背の高さは約5メートル、その長さのロープを各教室で先生が伸ばすと、キリンは教室内ではもちろん立つことができず、寝ても教室の右端の子の机から左端の子の机まで届いてしまいます。動物園という広い空間ではなく、子どもたちの日常の生活空間の中で見るキリンの大きさに、毎回歓声があがります。他に、キリンの新生児の身長や、餌を食べるときの舌の長さや動きなども先生に教室で再現してもらっています。
指導に参加してもらったことにより、先生たちからも具体的な改善のアイデアが寄せられるようになりました。そのなかで先生が教室で行える工夫については、他校の先生にも事前に共有するようにしています。オンライン授業では、必然的に教室の先生と協働することになります。その利点を大いに活かせばよりよい授業づくりができるということ、これは私たちにとっても大きな発見でした。
先生によると、オンライン授業を受けた子どもたちは「実際にキリンに会いに行きたい」「実物を確かめてみたい」という意欲がとても高まったとのこと。本当に来園につながれば、当初の課題も解決です。動物園が再び学校の子どもたちを迎え入れられるようになったときには、オンラインで事前学習をしてから実際にキリンに会いに来てもらう―――現在はそんなプログラムを準備しています。

小学2年生の絵の変化(左:授業前、右:授業後)
細部が具体的になり、全体に大きく力強くなっている
恩賜上野動物園※2022年2月25日現在臨時休園中
(住所)〒110-8711
東京都台東区上野公園9-83
- 問合せ
- 03-3828-5171
- 交通
- JR上野駅から徒歩5分 ほか(詳細は公式ホームページ参照)
- 開館時間
- 9:30~17:00(入園は16時まで)
- 休館日
- 毎週月曜日(月曜日が祝日の場合はその翌日) 、年末年始(12月29日~翌年1月1日)
- 観覧料
- 一般\ 600、65歳以上\ 300、中学生\ 200(都内在住・在学の中学生は無料)
小学6年生まで無料
※身体障害者手帳、愛の手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳をお持ちの方と付き添いの方1名は無料 - ホームページ
- https://www.tokyo-zoo.net/zoo/ueno/