2022年8月25日
身近なものほどおもしろい!
理科ハウス 学芸員 山浦安曇
科学館の展示というと、科学の原理を説明する大型の体験型装置や見事な生物標本などを思い浮かべる人が多いでしょう。日常では体験できないこと、見たことがない珍しいものに出会えることは科学館の大きな魅力ですし、現にそういった体験をしたくて科学館に行く方がほとんどではないでしょうか。しかし、世界一小さい科学館を名のる理科ハウスには珍しいものはありません。大型の装置もありません。あるのは本当に身近なものばかりです。
例えばこんな展示。材質の異なる透明な板を3枚並べた「この中でアクリル板はどれ?」

アクリル板はどれ?
この展示を見た人はほぼ全員もれなく、板を手に取って透かしてみたり、たたいたり、傷のつき具合を観察したり、すぐにアクションを起こします。アクリル板といえば今やコロナ禍の日常には欠かせないアイテム。いつも見ているものだから「気になる」のです。「学校にあるアクリル板にぶつかったときにこんな音がしたんですよ」「アクリル板以外で透明の板には何があるんだろう」「そもそもアクリル板って何でできているの?」など、次々と情報や疑問が飛び出し、気づくと科学対話が始まっています。さらに、アクリル板かどうかを確かめるにはどうしたらいいかと問いかけると、燃やす、こすって静電気を起こす、水につけるなど、予想以上の実験アイディアが飛び出してきます。もちろんその後、来館者の目の前で実験します。いつの間にか科学の原理について語り合っていたりします。

ああしたら、こうしたら。実験で確かめる。
展示と来館者をつなげるために対話を重視するのは言うまでもありません。しかし一方的に話しかけたところで科学的な対話にはならないでしょう。まず来館者の知っていることや興味のあることを引き出してこそ科学対話は成立するものだと日々実感しています。
さらに科学対話は、博物館での体験を日常に繋げていきます。先の透明な板実験では、板を端からライトの光に通して見たとき、透明度の高いアクリル板はライトの白色光がそのまま見えますが、他の材質(ポリエチレンテレフタラート)では赤っぽく見えます。これは、透明度の低い材質の場合、散乱によって主に波長の長い赤い光が目に入ってくるためです。実はこれが朝日や夕日が赤く見える理由につながっていきます。「なんで?」「なるほど!」「そうなんだ!」と脳みそをフル回転させて考えるからこその驚きと楽しさ。博物館の資料から、身の回りの自然現象へと世界が広がっていきます。ある時、「夕日の方が朝日よりも赤く見えるときがあるけど、どうしてだろう?」と言う人がいました。探求活動の始まりです!

高校生とディスカッション
また理科ハウスでは、社会現象を正しく理解するために知っておきたい科学知識をわかりやすく伝えることにも力を入れています。コロナ禍で多かった質問が、RNAワクチンって何?PCR検査って何?でした。このしくみを伝えるためにPCR法を疑似体験するパズルを作成したり、解説用の動画を作ったりしました。
こんなわけで、理科ハウスではニーズが変われば展示もどんどん変化していきます。いつ来館しても前回とは違う体験ができ、その体験が次の新しい世界への扉を開いていきます。こんなふうに来館者に寄り添えるのは、小さい科学館だからこその魅力なのかもしれません。
理科ハウス
〒249-0003
神奈川県逗子市池子2-4-8
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- 京浜急行逗子線「神武寺」駅から徒歩約6分、JR横須賀線「逗子」駅から徒歩約18分
- 開館時間
- 13:00~17:00
- 休館日
- 火曜日~金曜日(ウィルス感染症対策のため開館日を週に3日に制限しています)年末年始、展示入れ替え時
- 観覧料
- 高校生以下 無料
- 大学生 100円
- 大人 300円
- ホームページ
- https://licahouse.com/
新型コロナウィルス感染症対策のため、開館日や時間等を変更する場合があります。お出かけの際はホームページを確認し、必ずご予約ください。