2023年4月7日
『いのちを想う心の旅』を叶える
「南三陸311メモリアル」
一般社団法人南三陸町観光協会
南三陸311メモリアル担当チーフ
吉岡一浩
宮城県北東部に位置する南三陸町は、東日本大震災で831人が犠牲になり、建物の約60%が流出するなど、未曾有の被害を体験した町です。その被災体験をこれからの防災に役立てていただき、これまでいただいた支援への感謝を伝えたいという願いのもと、東日本大震災伝承館「南三陸311メモリアル」は、昨秋開館しました。隈研吾建築都市設計事務所が未来に漕ぎ出す船をイメージして設計した建物には、外壁に南三陸杉が使われ、新たな町のランドマークとなっています。隣接する南三陸さんさん商店街や、津波で大破し骨組みだけが残されている旧南三陸町役場防災対策庁舎を含む震災復興祈念公園一帯は、被災の記憶とふるさと再生の姿を五感で感じていただけるフィールドです。

隈研吾建築都市設計事務所設計による道の駅さんさん
南三陸の一角が「南三陸311メモリアル」。
左下の中橋、右下に一部が見える南三陸さんさん商店街も同所設計。
南三陸311メモリアルの展示計画に当たっては、南三陸町の住民があの日体験した厳しい現実や自然災害の理不尽さ、失われた多くの命に向き合っていただき、「もし自分だったら災害時にどうするだろう」と考えていただくための工夫を凝らしました。ギャラリーからアートゾーン、ラーニングシアターと進みながら、訪れる人が心を揺さぶられ、命を守るための選択に葛藤しつつ、気づきを獲得できるような流れを創り出そうと試みたのです。

南三陸311メモリアルの展示ギャラリー入口
展示バナーや証言映像が展示された小さなギャラリーを抜けると、ひときわ暗い空間に入ります。そこは、フランスの現代美術家 クリスチャン・ボルタンスキーのインスタレーション「MEMORIAL」のあるアートゾーンです。錆びた箱が無数に積み上げられた異空間にだれもが強烈な違和感を感じることでしょう。「なぜこんなにたくさんの箱が積み上げられているのか?」「その箱に何が入っているのか?」という問いは、「死」をリアルに想起させます。その衝撃は、自然災害から命を守る自分事としての学びに向かう心の準備につながるのです。自然災害や戦争で多くの命が失われる今、言葉や国境、時を越えて、この作品は訪れた人の心に命の尊厳を訴え続けていくことと思います。

クリスチャン・ボルタンスキー「MEMORIAL」photo 二村友也
次なる空間はラーニングシアターです。上映される映像の冒頭は、アートゾーンでの内的体験とつながります。3月11日の夜の星空が再現され、あの日失われた多くの命に思いを馳せることから、ラーニングが始まるのです。
現在、「生死を分けた避難」、「そのとき命が守れるか」の2本のプログラムを上映しています。住民たちの証言から、あの日いつもの訓練通りに高台に避難したはずなのに、無念にも多くの人々が命を落とす結果になってしまったことに来場者は気づいていきます。自然災害がもたらす想定外の現実を前に、自分だったら命を守るためにどうするかを、来場者は考え始めます。特に私たちが大切にしているのは、約45分のプログラム中に複数回もたれる話し合いの時間です。わずか1分ほどの話し合いですが、思いもかけない気づきを来場者にもたらしています。
ギャラリーからラーニングシアターまでの90分ほどの体験は、「いのちを想う心の旅」なのです。ここで投げかけられる問いに正解はありません。まさに正解を出せない「モヤモヤ」をこそ持ち帰って、語り合い、問い続けていただきたいと、私たちは願っています。

ラーニングシアターでは約45分のレギュラープログラムを上映しており、これを切り分けた約15分ほどのショートバージョンも提供している。上映時間が決まっているので、上映スケジュールや空き状況を確認の上、事前予約をおすすめしたい。公式ホームページ上部のメニューバー「ラーニングプログラム」から「予約」→「お申し込みはこちら」で、上映スケジュールを確認できる。
無料でご覧いただけるエントランスや「みんなの広場」には、東日本大震災と津波に関するさまざまなデータや南三陸町の被災状況、これまでの町における津波の歴史、地域住民たちの証言映像などを常設展示しており、2022年10月1日の開館以来、5カ月で約7万人が訪れています。
そこには、写真家 浅田政志氏が、地域を再生しようと力を合わせがんばっている住民たちを2013年から撮影し続けてきた47点の写真作品のうち20点が展示され、笑顔やユーモアを絶やすことなく歩み続けてきた住民たちの生きる力にあふれた姿が、見る人に元気を与えています。

浅田政志「みんなで南三陸」の作品展示
このほか、住民参加企画を推進しており、現在は、公募した震災前の南三陸町の写真や、震災前の街並みの復元模型を展示しています。町外からの来場者が多い施設ですが、災禍を共に乗り越えてきた地域住民たちにとって、この施設が、ふるさとの思い出を前向きに語り合い、語り継ぐ場となるように、住民に参加・参画していただける機会を創出しようと実施した企画です。今後ともこのような企画を続けていきたいと考えています。

みんなの広場では「あの頃に会いに行く 南三陸の暮らし展」が令和5年5月15日まで開催されている。
当施設ではこれまで89人の証言映像をアーカイブするとともに、住民などへの取材を通してまとめた85の展示バナーや51点の展示映像などを収蔵しています。年3〜4回の展示企画を行い、それぞれのテーマに添った展示物を十数点ずつご覧いただいています。館内では、専用タブレットでさらに多くの証言映像を閲覧できます。また、これらのアーカイブは、公式ホームページでもご覧いただけます。https://m311m.jp/archives/
南三陸町観光協会では、これまでも例年1万2千人ほどの教育旅行生を受け入れてきたほか、企業等の研修の場としても多くのみなさんにおいでいただいております。南三陸311メモリアル開館後初めて迎えるこれからの観光シーズンは、台湾などからのインバウンド誘客なども含め、さらに多くの皆様にお越しいただけるよう準備を進めております。
「南三陸311メモリアル」を核として、防災ウォークラリーや、食・環境への取り組みを学びつつ食材を味わうツアーなど、トータルで「いのちを想う心の旅」を満喫できるようにコンテンツを開発しております。ぜひ南三陸町にゆっくりと滞在し、いのちに思いを馳せる時間をお楽しみいただきたいと思います。

防災や命にまつわる格言などが館内各所に散りばめられている。あなたはいくつその言葉を発見できるだろうか。
南三陸311メモリアル
(住所)〒986-0752
宮城県本吉郡南三陸町志津川字五日町200番地1(道の駅さんさん南三陸内)
- 問合せ
- TEL 0226-47-2550
- 交通
- JR気仙沼線BRT志津川駅下車徒歩1分/三陸自動車道志津川インターより3分
- 開館時間
- 水曜日~月曜日 9:00~17:00
- 休館日
- 毎週火曜日・年末年始
- 入館料
- レギュラープログラム(60分)一般・大学生1,000円、高校生800円、小中学生500円/ショートプログラム(30分)一般・大学生600円、高校生500円、小中学生300円 ※下記ホームページから事前予約推奨。トップページ上部の「ラーニングプログラム」メニューバーから「予約」→「お申し込みはこちら」で上映スケジュールをご確認ください。
- ホームページ
- https://m311m.jp※上記内容は変更となる場合がありますので、最新の情報は公式ホームページでご確認ください。