2023年7月4日
博物館資料の石棒を核に関係人口を創出する
飛騨市教育委員会事務局文化振興課 学芸員 三好清超
飛驒みやがわ考古民俗館は、飛驒市宮川町に所在する岐阜県最北端のミュージアムです。豪雪地帯の生活民具2万点や、旧石器~縄文時代の発掘出土品5万点などを収蔵展示しており、とりわけ縄文の祈りの道具・1,074本の石棒には目を見張るものがあります。しかし、少子高齢化が著しく、市街地からも離れていることから管理人を募集しても集まらず、年間30日しか開館できない状況でした。実はこうした状況は、飛騨市が抱える大きな課題に根差しています。それは「人口減少先進地」であること。市の人口は約2万人、髙齢化率は4割に達するのです。この人口減少という大きな課題に対し、飛騨市では市外の方との接点や交流を増やし、関係人口を創出するための取り組みを進めてきました。
そうした施策の一つとして、飛驒みやがわ考古民俗館では2019年に「石棒クラブ」を立ち上げます。石棒を徹底的に発信して市内外にファンを増やすことで、飛驒みやがわ考古民俗館の存続を模索するという、石棒を核とした関係人口の創出に挑戦したのです。
活動の特徴は、市民参加で博物館資料のデータを取得し、オンライン発信で「見える化」することです。発信は、SNSや動画共有サイト等で行っています。Instagramでの「一日一石棒」では、塩屋金清神社遺跡で見つかった1,074本の石棒をほぼ毎日一本ずつ紹介しています (#sekiboclub)。また、石棒の裏側・底面も観察できるよう、Sketchfabや名古屋大学で開発中のCulpticonで3Dデータを公開し、オープンデータとして自由な利用を推奨しています。

3DデータをVR空間で活用(2022年)

3DデータをGIGA端末で
学校授業で活用(2022年)
実際に3Dデータを使って作られたロウソクなど、思いもよらない作品も生まれてきました。これらの画像データや3Dデータは、市内外から参加者を募った、「石棒撮影会」や「3Dデータ化合宿」によって制作されています。画像好き、3D好き、動画好きなど人によって興味が異なります。このため、館としてはあらゆる人との関わりが生じるよう入り口を準備してきた結果、様々な媒体の資料データが蓄積してきました。市民によって作成されたデジタルアーカイブです。さらに、「一日一石棒」の写真は、飛驒市オープンデータサイト・文化遺産オンラインでも公開を開始しました。

一日一石棒の写真撮影の様子(2022年)

3Dデータ化合宿(2021年)
各活動に共通するのは、参加者が石棒に触れること。数千年前の縄文人が残した石棒に直接触れる機会が感動と愛着を呼び、飛驒みやがわ考古民俗館を大切に思うファンが増えています。「自分で作った縄文3Dデータを携帯に入れてクルクルしている」、「市外の人との共働は、これまで体験したことがなく刺激になる」との声が寄せられ、資料への愛着が生じていること、市外の人との共働が市民にも良い影響を与えていると分かります。
また、参加できないが活動に賛同する方々から、ふるさと納税を通じた寄付も受けています。館への支援も多様な在り方を準備し、関わり方を増やしています。

企画の参加者が石棒を観察する様子(2019年)

石棒撮影会にて参加者同士で
ディスカッションする様子(2020年)
以上のように、市内外の参加者との共働で博物館資料のデジタル化を進め、多様な発信、多様な支援の受け方を整備することで、博物館とその資料との関係性を深め、関係人口を創出してきました。その結果、入館者は5年前から9倍に増加、もっと開館しないのかという声に応えて無人開館も検討し始めるなど、館の存続だけでなく活性化につながってきています。これからも、関心を持ってくれた方が多様な形で当館の資料に触れる機会を増やしていきます。人口減少が著しい飛驒市で飛驒みやがわ考古民俗館を存続させることが、全国の小規模ミュージアムの先進事例になると信じています。