2023年9月25日
教室と博物館をむすぶオンライン授業の可能性
平和祈念展示資料館 学芸員 加藤つむぎ
令和3年度の秋、平和祈念展示資料館では、学校と資料館をインターネットでむすぶ「オンライン平和学習支援プログラム」を開始しました。当初は、来館促進をねらいとする出前授業を計画していたのですが、コロナ禍で学校に出向くことができなくなり、計画自体が頓挫しかかっていました。そんな中、文部科学省が進めるGIGAスクール構想と、ICT環境の整備が進む一方で、学校現場の先生方がコロナとIT化の両対応にたいへんご苦労されている実態を知りました。そこで、少しでも先生方のお役に立てるよう、オンラインでも成立する出前授業を検討したものが本プログラムです。

オンライン平和学習支援プログラムの案内チラシ
事業の特色は、学校へ資料館にある展示品の複製資料を貸し出し、生徒・児童のみなさんに教室で資料を見てもらいながら、資料館スタッフがZoomを使ってオンライン授業を行うという点です。通常の出前授業と違い、学芸員等が現地へ赴く必要がないため、学校・資料館双方の負担が少ないこと、全国どこででも授業を行えることが大きなメリットです。
令和5年8月現在までに、約30の学校や団体を対象として、4,500名以上の方にオンライン授業を受講していただきました。

「兵士」をテーマとする貸出資料
学校には、旅行用のスーツケースに入った資料が届きます。先生は授業が始まるまでに、資料を教室の机に並べるだけ。オンライン授業では、当館の学芸員等が説明の中で子どもたちに資料を見たり触ったりするよう声をかけ、先生には資料を見せるサポートをしていただきます。

オンライン授業の様子(高崎商科大学附属高等学校提供)
十銭玉の縫い付けられた千人針を間近で見たり、軍装品を持ってその重さに驚いたり、戦地へ送られた慰問袋の中身を当てたり。画面越しであっても、子どもたちの表情を見ていると教室のワクワクした空気感が伝わり、通常の出前授業に近いインタラクティブな体験を提供できていると感じます。
教室に届いた資料を見て、触って、その体験を教室の友達と共有することで、何か一つでも記憶に残ればそれでいい。その記憶が「心のフック」となって次の学びにつながるのでは。

資料に触れて鑑賞する生徒たちの様子。(高崎商科大学附属高等学校提供)

みんな熱心に資料を見てくれました。(高崎商科大学附属高等学校提供)
この取り組みを始めて、改めて分かったのは、学校の先生方が本当にお忙しいこと。そして、多忙な中でも、平和学習に熱心に取り組まれている方が多いこと。教育現場の実態を知るほどに、私たちも先生方のお役に立ちたいという気持ちが強くなりました。
学校からのお礼のお手紙や、生徒・児童のみなさんから届いた感想を読むと、子どもたちがどう感じたか、どの資料が興味や関心を引いたかなどがよく分かります。
また、解説をしていて伝わりづらいポイントも見えてきました。たとえば、今の子どもたちは旧ソ連を知りませんし、徴兵制など、当時の制度や社会のしくみも、イメージすることが難しいようです。こうしたフィードバックは、オンライン授業だけでなく、資料館事業のヒントとなると思います。
「インターネットで作品や資料を見てしまったら、わざわざ博物館へ行く必要がなくなるのではないか?」と心配する声が時々聞かれます。けれども、受講後の感想には、「機会があったら平和祈念展示資料館を訪ねたい。」と書いてくれる生徒・児童もいます。
オンライン授業を受けた子どもたちが、家に帰ってご家族に、「いつか平和祈念展示資料館へ行こうよ。」と言ってくれたら、こんなに嬉しいことはありません。
プログラムの詳細はこちらをご覧ください。
平和祈念展示資料館(総務省委託)
(住所)〒163-0233
東京都新宿区西新宿2丁目6番1号
新宿住友ビル33階
- 問合せ
- 03-5323-8709
- 交通
- 都営大江戸線「都庁前」駅 A6出口より徒歩 約1分
- 東京メトロ丸ノ内線「西新宿」駅より徒歩 約5分
- JR線、小田急線、京王線「新宿」駅西口より徒歩 約10分
- 開館日時
- 9:30~17:30 (入館は17:00まで)
- 休館日
- ●月曜日 ※祝日または振替休日の場合はその翌日
- ●年末年始(12月28日~1月4日)
- ●新宿住友ビル全館休館日
- 観覧料
- 無料
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