2024年2月16日
楽しみながら学ぶための試み
福井県立こども歴史文化館 学芸員 奥田 陽子
◆子ども向けの歴史博物館
2009年(平成21)11月、福井県立こども歴史文化館(通称「これき」)が、旧県立図書館を改修してオープンしました。福井県にゆかりのある人物を紹介し、また、それを通して福井県の歴史や文化を伝えることが設置の目的です。
展示で紹介する人物は、歴史上で活躍した「先人」と、現在、各界で活躍する「達人」との2つに大別し、加えて「知の巨人」として、古代文字(漢字)の研究で知られる「白川静」とノーベル物理学賞を受賞した「南部陽一郎」も取り上げています。
当館の外観
◆深刻な課題に直面
当館は、その名のとおり、子どもたちのための施設です。よって、どのようにして子どもたちに歴史を知る楽しさ、大切さを伝えるのか、ということが当初からの最大の課題でした。その点からも、幅広い年齢層の子どもたちの中でも、学校で歴史の勉強を始める「小学校高学年の児童」をメインターゲットに想定しました。
しかし、実際に開館してみると、学校からの団体見学を除いて、自発的に保護者と来館するのは小学校低学年以下が多くを占め、想定した高学年はわずかでした。さらに、展示会場はイラストを用いた解説パネルが中心で、実物資料がわずかであったこともあり、常設展示の主となるべき「先人のひろば」のゾーンには、観覧者が滞留しないという問題が表面化したのです。
2階・先人のひろば
◆「ゲーミフィケーション」の導入
そこで、ただちに解決策の模索がはじまりました。そのとき、一つの糸口として見いだしたのが「ゲーミフィケーション」でした。これは、ゲームの要素をゲーム以外の分野に応用して、参加者のモチベーションや行動の変容を促すというものです。つまり、子どもたちの興味を惹かない展示観覧にゲームの要素を加え、別の目的から関心を喚起するという戦略でした。
まず考案したのが「サイコロタイムトラベラー」と名付けた観覧ゲームです。「先人のひろば」の各コーナーに、大きなサイコロとガチャマシーンを配置して、ゲームをしながら回遊するためのマップとクイズを用意しました。ゲームの手順は、①参加者が「歴史の狭間に迷い込んだ」という設定のもと、サイコロの出た目にしたがって古代から近現代までのコーナーに移動する。②その場所に着くと、置かれているガチャマシーンから先人にまつわるクイズを受け取って回答する。③それを5回繰り返すと、もとの時代に帰還できる(クリア)というものです。これは、当館最初の観覧ゲームとして2012年(平成24)の夏休みに運用をはじめました。その結果、それまで閑散としていた「先人のひろば」に、先人の名前や時代区分を呼び合う子どもたちの活発な声が聞こえるようになりました。
サイコロタイムトラベラーの台紙とキャラクター(コレモン)
このクイズを出すのが、先人にちなんだ物や文言などをモンスターにした「これきモンスター(コレモン)」であったこともあり、子どもたちの人気を呼びました。出る回数の少ないレアなコレモンや好きなコレモンを求めて、何度も取り組む子どもがいました。さらに驚かされたのが、何人かの保護者から「家に帰っても先人の名前を口にしている」との連絡があったことです。「ゲーム化する」ことの効果を目の当たりにする出来事でした。
現在でも、主に団体見学用のツールとして運用しています(後年、サイコロをルーレットに変更しました)。
サイコロタイムトラベラーに参加する子どもたち
◆今後に向けて
やはり当館では、常設展、特別展のどちらにおいても子どもたちの歴史への関心の入り口をどのように準備するか、ということが一番の課題です。先の観覧ゲームも万全ではなく、問題点がたくさんあります。たとえば、子どもたちがゲームのクリアを急ぐばかりに、パネルから答えだけ探して、他を見ないという点です。
この解決策としては、設問を穴埋め式(選択式)にしないこと、つまり自由意見を求めるようなものにすることが考えられます。また、一方的ではなく双方向で行うものとして、子どもたちからの先人に対する質問や意見を求めるという方法もあるかと思います。ただ、子どもたちは自由意見であっても正解を探そうとする傾向があり、問題づくりにはまだまだ検討を重ねる必要があると感じています。
「人は楽しいときほどよく学ぶ」を合言葉に、当館ではこの先も楽しみながら学んでもらう方法の試行錯誤、いろいろなチャレンジを続けていきたいと思います。もちろん、学芸員としてもこれを楽しみとしながら取り組んでいきます。
福井県立こども歴史文化館
(住所)〒910-0853 福井県福井市城東1-18-21
- 問合せ
- 0776-21-1500
- 交通
- ★車 福井駅から約5分、北陸自動車道福井ICから約10分
- ★徒歩 福井駅から約15~20分
- ★無料バス(フレンドリーバス)
- こども歴史文化館先回りで4分
- (福井駅東口バス乗り場 毎時0分発)
- 開館時間
- 午前9時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
- 休館日
- 毎週月曜日、祝日の翌日
- 観覧料
- 無料
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