2024年4月2日
地域を知る場所としての博物館リニューアル
四万十市教育委員会 社会教育振興係長 川村 慎也
大規模リニューアルを変化のチャンスに
四万十市郷土博物館の外観
市街地から続く細いくねくね道を登るとお城の姿をした小さな博物館が現れます。
ここ、四万十市郷土博物館は中世から続く城跡に建つ博物館です。館には古文書などの歴史資料から美術工芸品、カワウソの剥製まで多様な資料が保管されています。一方で建築から50年以上が経ち、建物の老朽化が進み、安全性や資料の保存・展示環境にも不安が多くなっていました。館の展示も内容が変わらない期間が長く、地域の文化を発信する活動が停滞しノウハウの蓄積も希薄な状態になっていました。
そんな博物館にリニューアルの機会が訪れたのは、平成28年のこと。地域に密着した小規模な博物館として単なる改修に留めず、地域に継承されてきた風土や文化を伝え、住民に親しまれる施設に生まれ変わらせたい。そのために、館の役割やコンセプトの抜本的な見直しを行いました。
これまで動きを止めていた館で何を伝え、どのような活動を展開していくのか、一見つながりの見えにくい資料群をどのように活かして行くのか。コンセプトの見直しにあたっては歴史等の特定分野に限定せず、所蔵する多様な資料を使って街の在り方を伝える施設にできないかを、市をとりまく環境や暮らし、歴史や文化から考えてみることにしました。
川とともに生きるまち
1年を通じて川に人の姿がある
川と地域の関わりを展示
高知県四万十市は、四万十川の河口部に位置し、日々の暮らしが川と近しい関係にある街です。市域の84%が森林で平地が少なく、かつては川を使った舟運が盛んで、街の発展も川が支えてきました。また、中世には京都から一條教房という公家が下向してまちづくりの基礎を築いた歴史があり、四万十川とその支流を京都の地形に見立てて地域の誇りとするまちづくりが長く継承されてきました。
お祭りでは神輿が川を渡ったり、夏には子どもたちが川で遊んだり、アユ、ウナギ、エビ、カニ、ノリなど様々な川漁が今でも行われています。四万十川の代名詞とも言える増水時に川面に沈む沈下橋も、水害をいなす知恵から生まれているのです。このように私たちの街では季節を通じて川に人の姿があり、川と関わりの深い暮らしが育まれています。このような街の特性から、館のコンセプトを「川とともに生きるまちの博物館」としました。
地域の小規模な博物館は、所在する地域の文化を伝え、継承する役割を持っています。地域の“当たり前”の日常には暮らしが積み重なって創り上げられた文化が見えています。そこに光を当てることで人口減少や高齢化で希薄になりつつある地域文化の共有が進むはずです。古いことや希少なことだけが博物館の伝えることではなく、地域の個性や成り立ちの物語を共有することが館の果たすべき役割だと考えています。
地域とのつながり
伝統料理から地域を知る企画展
学生たちと展示内容を考える
館の改修では耐震補強など安全性の向上に加えて、資料の保存環境を改善する収蔵庫や空調設備等の導入、少人数でも展示更新のしやすい設備の工夫、展示制作を館内で完結できるよう大判プリンターの導入などを行って、令和元年2月にリニューアルオープンしました。
地域の文化は歴史や食文化、方言や風景に至るまで様々なところに表れています。これらを伝えるために、伝統的な料理一品から自然環境や伝統漁法を考える展示や、景観の読み解きから集落の歴史や文化を考える展示など多様な切り口の企画展を開催しています。また、近年は展示を学校や地域の皆さんと連携して創る機会も増えてきています。
企画展を訪れた皆さんからは、「地元に暮らしていても初めて知った」、「懐かしいこと、改めて気づくことがある」といった声も聞かれます。また館内のクイズに全問正解すると缶バッジ等が当たる「クイズラリー」は大人も子どもも楽しんで参加してくれています。
親子で楽しむクイズラリー
企画展ごとの缶バッジ
博物館が何のために存在し、どのような活動を展開していくのか、これからの博物館の在り方を考えるのは、大変な作業でしたが、それこそがこれからの館の活動の基盤になっているのだと思います。
これからも新しいコンセプトを軸として多様な切り口で私たちの街の姿をお伝えしていきます。ぜひ山の上の博物館に足を運んで、楽しみながら地域の豊かな文化を知っていただきたいと思います。
四万十市郷土博物館
(住所)〒787-0000 高知県四万十市中村2356 為松公園内
- 問合せ
- 0880-35-4096
- 交通
- 土佐くろしお鉄道「中村駅」から徒歩約40分、車約12分
- 開館時間
- 9:00~17:00(入館は16:30まで)
- 休館日
- 水曜日 ※展示替え等に伴う臨時休館あり
- 観覧料
- 大人 440円(350円)
- 高校 170円(140円)
- ( )内は20名以上の団体料金です。
- ※以下の方は無料で入館いただけます。窓口で確認できるものをご提示下さい。
- ・中学生以下の方
- ・65歳以上の方
- ・身体障害者手帳をお持ちで、障害の程度が2級以上の方とその介護者1名
- ・療育手帳をお持ちの方とその介護者1名
- ・精神障害者保健福祉手帳をお持ちで、障害の程度が2級以上の方とその介護者1名
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