2024年5月10日
こころに「ささる」解説を
(公財)東洋文庫 研究員・学芸員 篠木由喜
東洋文庫は、東洋世界(広くアジア全域)の歴史や文化についての書籍、地図、絵画など約100万点を所蔵している東洋学の研究図書館でしたが、2011年に、これまで研究者向けだった施設や研究内容を広く一般に知ってもらおうと、ミュージアムを併設しました。

ミュージアム内展示室「モリソン書庫」
東洋学とは、東洋の歴史や文化などを研究する学問です。東洋文庫ミュージアムでは“より多くの方々に東洋学を広め、アジア各地の歴史や文化に興味を持ってもらう”ことをミッションとしています。このミッションをクリアするために特に力を入れている利用者目線を意識した解説パネルについて、わたしたちの取組を紹介します。
東洋文庫の解説パネルには、開館以来ずっと来館者の興味を引くためのキャッチコピーを加えてきました。例えば、『御殿山の花見駕籠』という浮世絵なら「お姫様のピクニック」というキャッチコピーを入れました。これによって“どんな場面が描かれているのか”も一目でわかります。こういった工夫で、当館の資料にそれほど興味のなかった人であっても、解説パネルを読んでくれることを目標にしています。

浮世絵「御殿山の花見駕籠」3枚のうち1枚

「御殿山の花見駕籠」解説パネル
また、資料が展示のストーリーラインの中でどういう役割、位置付けを持つのかを特に意識して書き分けています。展示テーマとの関連性を示して流れを作るとか、注目して欲しいポイントがあるとか、価値があることを知ってほしいなど、解説にはいろいろな役割が考えられます。
具体例として中国・清朝の最盛期の皇帝、乾隆帝が作らせた『準回両部平定得勝図』という資料の解説パネルを紹介します。清軍と敵対勢力が馬に乗って戦っている勇壮な場面を描いた版画の一つで、よく出品される人気資料ですが、展示テーマによって解説を書き分けています。

「準回両部平定得勝図」のうち1図
例えば、この資料を「名品」として出した時は、「画家・彫工ともに当代一流の名匠を起用し、フランス銅版画の精緻な技術を駆使した作品」として紹介しました。

「準回両部平定得勝図」名品版解説パネル
「大清帝国」展では、この版画を乾隆帝の功績を示す資料の1つとして紹介し、「朕こそは完全無欠のエンペラー!」というキャッチコピーを入れました。一方で「清朝・乾隆帝による戦果アピールというプロパガンダ的な要素が強い作品でもある」とも表記して、この資料の大清帝国史での位置付けも理解できるようにしました。

「準回両部平定得勝図」大清帝国展版解説パネル
さらに「本から飛び出せ!のりものたち」展では、図中の馬に注目してもらうための解説を書きました。よくみると、前足と後ろ足をそろえた、ウサギのような跳ね方で描かれているのです。
「清朝には馬を観察してたくさんの馬図を残した宮廷画家がいたのに、全力疾走している馬の姿を正確に捉えるのは彼らの観察眼をもってしても難しかった、だからちょっとヘンなんです」と紹介しました。

「準回両部平定得勝図」のりもの展版解説パネル
その他に大切にしていることは、なんといっても、今の私たちとのつながりや関わりを提示するということです。展示企画時にフォーカスターゲットへのアンケート調査をしても、「自分に関係することなら見たい」というコメントが多いです。2019年「インドの叡智展」の時は、私自身が「御徒町でスパイスを買ってインド風カレーを作ったよ」というパネルをつくりました。深淵なインドの叡智とお客様を、カレーで繋げようという試みです。その日の夕食がカレーになったお客様がいたら成功かな?と思っています。

「カレー作ってみました」パネル インド展にて
「東洋文庫は解説がおもしろいから、また別の企画展も観に来たい」といった声をいただくことも増えてきました。今後もお客様の“こころ”に何か残すことができる解説を追求していきます。
東洋文庫ミュージアム
〒113-0021 東京都文京区本駒込2-28-21
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- 03-3942-0280
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千石駅(都営地下鉄三田線A4番出口)徒歩7分
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- 水曜日~月曜日 10:00〜17:00(入館は16:30まで)
- 休館日
- 毎週火曜日
- 観覧料
- 一般 900円、65歳以上 800円、
大学生 700円、高校生 600円、
中学生以下 無料
※但し、小学生のご利用は中学生以上の
要保護者同伴
団体割引 20%(20名以上)
障がい者 350円 (付き添いは1名まで350円)
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