2024年6月27日
災害の記録を美術館で
―「東日本大震災の記録と津波の災害史」を常設展示―
リアス・アーク美術館 館長 山内宏泰
バブル景気と言われた時代の終焉を経て間もない1994年10月、人口10万人に満たない小さな港町、宮城県気仙沼市にリアス・アーク美術館が誕生しました。今年、当館は開館30周年を迎えます。

リアス・アーク美術館外観
美術館と名乗る当館ですが、実は開館当初より芸術文化資料以外に歴史・民俗・生活文化系資料を常設展示している総合博物館的な施設です。当館では「地域の芸術文化を知るためには、土台となる地域文化を知る必要がある!」との方針を掲げ、多種多様な事業を行ってきました。特に、三陸の文化形成に重大な影響をもたらす津波災害については2011年以前から、明治三陸地震津波、昭和三陸地震津波、1960年チリ地震津波などを研究対象としてきました。

歴史・民俗・生活文化系資料常設展示「方舟日記」より
2011年3月11日、東北地方太平洋沖地震によって発生した巨大津波は、当館の運営母体である気仙沼市と南三陸町に壊滅的な被害をもたらしました。気仙沼市内の小高い丘に建つリアス・アーク美術館は津波による直接の被害を免れましたが、地震による破損は大きく約1年半の休館を余儀なくされ、事業再開には約2年の時を要しました。
震災発生直後、市長並びに教育委員会より「東日本大震災記録調査活動担当」との特命を受けた私たち美術館学芸員は、3月16日以降、気仙沼市内並びに南三陸町内の津波被災現場をくまなく歩き、2012年12月末日までに被災現場写真約3万点、収集被災物約250点、その他文字記録など膨大な資料を蓄積しました。

2011.3.16気仙沼市新浜町の状況
私たちが東日本大震災の記録調査を行った当初の目的は、被災したまちの最後の姿、被災以前のまちの記憶を記録することでした。今後長く続くことになる復旧・復興期を正しく乗り越えていくために、私たちには帰り着くべきまちの姿を心に刻んでおく必要がありました。そしてさらに、過去に同様の津波を経験していた地域でありながら、なぜ再びこれほどの大被害を出してしまったのか?同じ過ちを繰り返さないために、私たちはその原因も共有していかなければなりません。ゆえに、当館では震災記録調査資料による常設展示の新設、公開を急ぎました。

2011.4.5気仙沼市内の脇の状況
2013年4月3日、リアス・アーク美術館は同館1階に「東日本大震災の記録と津波の災害史」常設展示をオープンしました。具体的な展示資料は、被災現場写真203点、収集被災物155点、歴史資料等137点の約500点です。それら展示資料の9割以上が、当館学芸員によって記録収集、編集された資料であり、全ての解説テキストが被災した学芸員の言葉で綴られています。

東日本大震災の記録と津波の災害史常設展示より
「何にもなくなってしまったけれど、ここには撤去前の壊れた我が家の写真がある。」公開当初、そう語る地元の方がたくさんいました。そしてその写真を頂けないものか、との要望にも応えてきました。展示を見ながら、自分の体験を語り合う人の姿もよく見かけました。「見学するか一年悩んだけれど、見てよかった。」と真っ赤な目で語った方もいました。そんな中でも印象に残った言葉は「あの体験をどう言葉で表現していいか分からなかった。ここにはその言葉が全部ある、救われた。」という感想です。
被災経験の有無にかかわらず皆が共有できる言葉を提供し続けること。公開以来、今も、そしてこれからも変わらない同常設展示の最重要ミッションです。
リアス・アーク美術館
(住所)〒988-0171
宮城県気仙沼市赤岩牧沢138-5
- 問合せ
- 0226-24-1611(月・火・祝日の翌日を除く9:00~17:00)
- 交通
- 東北新幹線【一ノ関駅】~大船渡線【気仙沼駅】下車 ※【気仙沼駅】からタクシー(約15分~)をご利用ください。その他のアクセス方法は当館ホームページをご参考ください。
- 開館時間
- 水曜日~日曜日 09:30~17:00(入場は閉館30分前まで)
- 休館日
- 毎週月・火曜日、祝日の翌日(土日の場合を除く)
- 観覧料
- 常設展示の観覧料金:一般700円 大学・専門学生600円 高校生500円 小・中学生350円
※20名以上の団体は各100円引きとなります。 - ホームページ